化学物質の初期リスク評価書

Ver. 1.0

No. 5

直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩

(アルキル基の炭素数が10から14までのもの

及びその混合物に限る。)

Linear alkylbenzene sulfonic acid and its salt

化学物質排出把握管理促進法政令号番号:1-24

CAS登録番号: 25155-30-0

20057

新エネルギー・産業技術総合開発機構

委託先 財団法人 化学物質評価研究機構

委託先 独立行政法人 製品評価技術基盤機構

序 文

目的

「化学物質の初期リスク評価書」は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術開発機構から委託された化学物質総合評価管理プログラムの一環である「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」プロジェクトの成果である。このプロジェクトは、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」 (化学物質排出把握管理促進法) の対象化学物質を中心に有害性情報、排出量等の暴露情報など、リスク評価のための基礎データを収集・整備するとともに、これらを利用したリスク評価手法を開発し、評価するものである。

「化学物質の初期リスク評価書」では、環境中の生物及びヒト健康に対する化学物質のリスクについてスクリーニング評価を行い、その結果、環境中の生物あるいはヒト健康に悪影響を及ぼすことが示唆されると判断された場合は、その化学物質に対して更に詳細な調査、解析及び評価等の必要とされる行動の提案を行うことを目的とする。

初期リスク評価の対象

化学物質排出把握管理促進法第一種指定化学物質のうち、生産量、環境への排出量及び有害性情報などを基に選択した化学物質を初期リスク評価の対象とする。環境中の生物への影響については、有害性評価手法が国際的に整えられている水生生物を対象とする。ヒト健康への影響については、我が国の住民を対象とし、職業上の暴露は考慮しない。

公表までの過程

財団法人 化学物質評価研究機構及び独立行政法人 製品評価技術基盤機構が共同して評価書案を作成し、有害性評価 (環境中の生物への影響及びヒト健康への影響) については外部の有識者によるレビューを受け、その後、経済産業省化学物質審議会管理部会・審査部会安全評価管理小委員会の審議、承認を得ている。また、暴露評価及びリスク評価については独立行政法人 産業技術総合研究所によるレビューを受けている。本評価書は、これらの過程を経て公表している。

なお、本評価書の作成に関する手法及び基準は「化学物質の初期リスク評価指針Ver. 1.0」及び「作成マニュアルVer. 1.0」として、ホームページ (http://www.nite.go.jp/) にて公開されている。

要    約

本評価書では、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 (アルキル基の炭素数が10から14までのもの及びその混合物に限る。) (LAS) をリスク評価の対象とする。また、LASのアルキル基の炭素数 n (鎖長 n) に関しては特に必要がある場合はCnLASと表記する。

LASは、主に家庭用及び業務用の合成洗剤 (洗濯用、台所用)として使用される。その他、繊維工業用染色助剤、一般洗浄剤、農薬乳化剤などの用途がある。化学物質排出把握管理促進法に基づく「平成13年度届出排出量及び移動量並びに届出外排出量の集計結果」によると、LASの届出排出・移動量は、2001年度1年間に全国で、大気に12トン、公共用水域に38トン排出され、廃棄物として1,472トン、下水道へ116トン移動している。土壌への排出はない。届出外排出量としては対象業種の届出外事業者から5,914トン、非対象業種から2,923トン、家庭から24,216トンと推計されている。移動体からの排出量は推計されていない。なお、届出事業所以外からの下水道への移動量は、63,842トンと推計されている。

環境中の生物に対する暴露マージンと初期リスク評価: LASの河川水中濃度は、環境省による要調査項目存在状況調査結果における2000年度の測定結果から、AA~C類型の95パーセンタイルは45μg/Lであった。そこで、環境中の水生生物に対するリスクを評価する推定環境濃度 (EEC) として、45μg/Lを採用した。水生生物に対して最も強い有害性を示すデータとして、魚類であるファットヘッドミノーの致死に対する60日間NOECの0.11 mg/L (平均鎖長 13.3) を採用した。暴露マージン (MOE) 2.4は本評価における不確実係数積10より小さく、現時点ではLASが環境中の水生生物に悪影響を及ぼすことが示唆され、優先的に詳細な調査、解析及び評価等を行う必要がある候補物質である。なお、上市されているLASの平均鎖長11.8に近い平均鎖長11.7の場合、MOEは11となり、不確実係数積10より大きいことから、環境中の水生生物に悪影響を及ぼす可能性は低いことを示唆しており、上述の評価結果と異なるため、環境中に存在するLASの鎖長の分布調査を行うことが強く望まれる。

ヒト健康に対する暴露マージンと初期リスク評価: LASの環境経由のヒトへの暴露経路としては飲料水 (0.10μg/L (測定値))、食物 (魚類: 580μg/人/日 (推定値)) 及び消費者製品 (経口: 約15 mg/人/日 (測定値)、経皮: 約2.1 mg/人/日 (測定値)) からの経口及び経皮暴露が考えられる。なお、食物中濃度は利用できるデータが得られなかったため、海域中濃度から推定した魚体内濃度を用いた。一般環境の大気中にLASが分布する可能性は低いと予想されるため、本評価書においては大気からの吸入暴露は考慮しない。ヒトの体重1 kgあたりの1日摂取量を経口、経皮それぞれの経路で300及び42μg/kg/日と推定した。LASのヒトにおける定量的な健康影響データは得られていないため、ヒト健康への影響のリスク評価には長期の動物試験データを用いた。吸入経路では、調査した範囲内では影響を適切に評価できる試験結果は得られなかった。経口経路では、1年以上にわたる長期毒性試験のうち、ラットへの生涯経口 (混餌) 投与した試験における最高投与量をNOAEL 300 mg/kg/日として採用する。経皮経路では、ラットの2年間経皮投与した試験におけるNOAEL 57 mg/kg/日があるが、この値は、試験での最高投与量であり、またLASの鎖長が不明であることから、リスク評価には採用しない。一方、生殖・発生毒性については、平均鎖長11.7のLASを1日1回、妊娠0~20日の塗布投与した試験で、ラットの母動物への生殖毒性であるNOAEL 107 mg/kg/日をリスク評価に採用する。

一般毒性に関して、LASの経口経路のMOE 1,000は、ヒト健康に対する評価に用いた毒性試験結果の不確実係数積100より大きい。また、全経路のMOE 880も、不確実係数積100より大きい。一方、生殖・発生毒性については、経皮経路のMOE 2,500はヒト健康に対する評価に用いた毒性試験結果の不確実係数積100より大きい。

これらの結果から、LASは、現時点ではヒト健康に悪影響を及ぼすことはないと判断する。

目   次

1. 化学物質の同定情報
1.1 物質名
1.2 化学物質審査規制法官報公示整理番号
1.3 化学物質排出把握管理促進法政令号番号
1.4 CAS登録番号
1.5 構造式
1.6 分子式
1.7 分子量
2. 一般情報
2.1 別 名
2.2 純 度
2.3 不純物
2.4 添加剤又は安定剤
2.5 現在の我が国における法規制
3. 物理化学的性状
4. 発生源情報
4.1 製造・輸入量等
4.2 用途情報
4.3 排出源情報
4.3.1 化学物質排出把握管理促進法に基づく排出源
4.3.2 その他の排出源
4.4 排出経路の推定
5. 環境中運命
5.1 大気中での安定性
5.2 水中での安定性
5.2.1 非生物的分解性
5.2.2 生分解性
5.2.3 下水処理による除去
5.3 環境水中での動態
5.4 生物濃縮性
6. 暴露評価
6.1 環境中分布予測
6.2 環境中濃度
6.2.1 環境中濃度の測定結果
6.2.2 環境中濃度の推定
6.3 水生生物生息環境における推定環境濃度
6.4 ヒトへの暴露シナリオ
6.4.1 環境経由の暴露
6.4.2 消費者製品経由の暴露
6.5 推定摂取量
7. 環境中の生物への影響
7.1 水生生物に対する影響
7.1.1 微生物に対する毒性
7.1.2 藻類に対する毒性
7.1.3 無脊椎動物に対する毒性
7.1.4 魚類に対する毒性
7.1.5 その他の水生生物に対する毒性
7.2 陸生生物に対する影響
7.2.1 微生物に対する毒性
7.2.2 植物に対する毒性
7.2.3 動物に対する毒性
7.3 環境中の生物への影響 (まとめ)
8. ヒト健康への影響
8.1 生体内運命
8.2 疫学調査及び事例
8.3 実験動物に対する毒性
8.3.1 急性毒性
8.3.2 刺激性及び腐食性
8.3.3 感作性
8.3.4 反復投与毒性
8.3.5 生殖・発生毒性
8.3.6 遺伝毒性
8.3.7 発がん性
8.3.8 その他の影響
8.4 ヒト健康への影響 (まとめ)
9. リスク評価
9.1 環境中の生物に対するリスク評価
9.1.1 リスク評価に用いる推定環境濃度
9.1.2 リスク評価に用いる無影響濃度
9.1.3 暴露マージンの算出
9.1.4 環境中の生物に対するリスク評価結果
9.2 ヒト健康に対するリスク評価
9.2.1 ヒトの推定摂取量
9.2.2 リスク評価に用いる無毒性量
9.2.3 暴露マージンの算出
9.2.4 ヒト健康に対するリスク評価結果
文  献