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8 ヒト健康への影響

8.1 生体内運命

直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 (アルキル基の炭素数が10から14までのもの及びその混合物に限る。) (LAS) の生体内運命の試験結果を表 8-1 に示す。実験には、LASの挙動を知るために、14C或いは35Sで標識されたLASが主に用いられている。

a. 体内吸収
35Sで標識したLAS 1.2 mg/匹を雄のラット (系統不明) に強制経口投与した実験で、24時間以内に尿中に投与放射能の54%が、糞中には23%に排泄され、72時間以内に尿と糞中に58%、39%、合わせて97%が排泄された。別の実験で、糞中に未変化体のLASが投与量の19%が排泄された。これらの結果から、経口投与されたLASは消化管で投与量のおよそ80%が速やかに吸収され、主に尿中に排泄されることが示された。一方、リンパ管系に殆ど35Sが見出されなかったので、消化管で吸収されたLASは血管系を通して運ばれることが示唆された。また、経口投与されたLASの35%は、胆汁中に排出され、消化管で再吸収されること、胆汁中にはLAS自体は含まれていないことが示された (Michael, 1968)。
経口投与されたLASが消化管で吸収されることが確かめられたが、血中への移動は確かめられていない。そこで、雄のWistarラットに、ベンゼン環が14Cで標識されたドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム (14C-LAS-Na) を経口投与して、血中濃度変化を追ったところ、投与後15分で血中に検出され、2 時間後に最大となった。その後、漸次減少して、48時間後にほぼ消失した。この生物学的半減期は、10.9 時間と計算された (砂川ら, 1979)。
アカゲザルに14Cで標識されたLAS経口投与したところ、、血中LAS濃度は4時間後に最大となり、その後減少した。生物学的半減期は、5~6時間であった。血清量が体重の5%と仮定すると、最大濃度のLAS量は、投与量の5.7%に相当した。一方、LASの皮下単回投与で、血中濃度は2~4時間で最大となり、この時の血中LAS量は、投与量の5.6~7.4%に相当した。その後、24時間で速やかに減少した。24時間までの半減期は8~10時間と求められた (Cresswell et al., 1978)。
LASの経皮吸収を調べるために、雌Wistarラットの背部の皮膚にp-1-[1-14C]ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム ([14C]DOBS) 水溶液を塗布した。15分後に、充分に水洗いされ、過剰な[14C]DOBSが除かれた。その後塗布箇所を覆って保護した。24時間後に14Cが皮膚表面、毛小胞に検出されたが、真皮中には検出されなかった。また、呼気中の炭酸ガス、尿、糞中には14Cは検出されなかった。この結果は、LASの15分間皮膚接触では、LASは皮膚表面に付着するが、皮膚を通して吸収されないことを示唆している (Howes, 1975)。
b. 組織分布
雄のWistarラットに14C-LAS経口投与後、14Cの組織分布が調べられた。LAS投与後4時間で、消化管とその内容物 (胃と大腸の内容物)、膀胱での放射能濃度が高く、肝臓、腎臓、精のう、膵臓、肺が次いで高かった。2日目も比較的高かったが、7日後には、肝臓、腎臓、脾臓、大腸とその内容物に微量の放射能が検出されたが、他の器官では検出限界以下となっていた。14C化合物の分析がなされていないので、LASかその代謝物かは定かではないが、投与後7日目までに投与量のほぼ100%が排泄されることからも、LAS或いはその代謝物の体内への蓄積はないものと考えられた (砂川ら, 1979)。
マウスにおけるLASの生体内運命を調べるために、妊娠したICRマウスの妊娠3日目に、LAS経口投与され、投与後4、8 時間にHPLC法を用いてLASが定量分析された。投与量は10 mgであり、350 mg/kgに相当する。LASは、8時間以内に消化管で60%吸収される。組織分布をみると、4時間後に胃、小腸、肝臓、血中にみいだされる。しかし、腎臓、卵巣、子宮には見出されていない。8時間後には、肝臓、血中の濃度は2倍に増加した一方、胃腸では減少した。腎臓にもLASは見出されたが、卵巣、子宮では検出されなかった (Koizumi et al., 1985)。
アカゲザルに14Cで標識されたLASの7日間経口投与後の器官、組織への分布をみると、最後の投与後2時間で、胃のLAS量が高く、その後減少した。次いで、腎臓、消化管、肝臓で高く、4時間後には減少した。一方、4 時間後には心臓、脳、生殖腺、眼、脾臓、甲状腺、下垂体、皮下脂肪では増加した。消化管では24 時間後最大となった。24 時間後、消化管を除いて、すべての器官で減少した。48 時間後ではさらに少なくなっていた。48 時間後に調べた限り、LASとその代謝物の器官特異的な蓄積、分布はなかった (Cresswell et al., 1978)。
LASの経皮吸収による組織分布を調べるために、雄のSDラットとモルモット (雌雄不明)に、白色ワセリンと混合した35S-ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを背部に塗布し、絆創膏で固定した。皮膚塗布24時間後、35Sは肝臓、腎臓に最も多く検出された。他に精巣中にも見出された。雄ラット肝臓に取り込まれたLAS量は、塗布量の0.03%と算出された。モルモットの各器官の35S分布量は、ラットの約5分の1であった (長谷川ら, 1978)。


c. 代謝
妊娠したICRマウスの肝臓でのLAS代謝を調べてみると、鎖長分布が4時間後には変わり、C10、C11成分の割合が減少したが、C12、C13成分は変わらなかった。8時間後には、未代謝LASは4.3%に減少し、殆どのLAS代謝分解されている。この結果は、LAS代謝が肝臓で行なわれ、アルキル鎖の短い方から鎖長の短縮分解が生じていることを示している (Koizumi et al., 1985)。

排泄
雄のWistarラットに、ベンゼン環が14Cで標識されたドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム (14C-LAS-Na: 著者略称) を経口投与した後、投与放射能の尿と糞中への排泄の時間変化をみると、投与後、尿中と糞中にほぼ等しい割合で排泄され、投与後2日目までにそれぞれに投与量の約50%が排泄され、合せて投与量の99.4%となった。7日目までには全投与量が排泄された。投与後15分で血中に検出されることから、消化管からの吸収は速やかであり、また投与後2日以内に大部分が尿と糞中に排泄されることから、吸収されたものは、速やかに排泄されることが分かった。投与後24時間以内の尿と糞中の14C-化合物を分析した結果、LASの未変化体は存在せず、より極性の強い代謝産物が、尿中に2つ、糞中に4つ確認された。しかし、これらの化合物は同定されていない (砂川ら, 1979)。
雄のラット (系統不明) に経口投与された35S-LAS代謝物として、尿中に35S-LASより極性の大きな2つの親水性化合物が見出された。これらの化合物の構造が決定され、スルホフェニルブタン酸とスルホフェニルペンタン酸であることが同定された。この結果から、吸収されたLASの60-65%は体内で代謝され、スルホフェニルブタン酸とスルホフェニルペンタン酸の混合物としてに尿中に排泄されることが示された (Michael,1968)。
雌雄のアカゲザルに14Cで標識されたLASを経口単回投与または皮下単回投与したところ、120時間後に、それぞれ、雌雄平均して尿中に約71%、64%が、糞中に約23%、11%が排泄された。尿中には、LASの未変化体は検出されなかったが、LASより極性の強い5種の代謝物が検出された。グルクロニダーゼとスルファターゼ処理で変化しないので、代謝物はグルクロン酸抱合体、硫酸抱合体ではないことが示唆された (Cresswell et al., 1978)。
以上の結果から、LASの生体内運命を経口と経皮の2つの経路についてまとめてみると、まず、LASが食事・飲水で体内に取り込まれた場合、消化管で速やかに吸収される。吸収されたLASは、血液を介して、全身を巡る。血中濃度は、摂取後2-4時間で最大となり、48時間後には殆どゼロとなる。また、LASは腸肝循環経路を経て、肝臓に運ばれる。そして、肝臓内で代謝を受け、アルキル鎖が短くなり、より極性の強い、親水性の化合物に変わる。その後、胆汁とともに腸に分泌され、代謝物の一部は消化管で再吸収されるとともに、糞として排泄される。一方、腎臓に運ばれたLAS代謝物は、膀胱に送られ、尿として排泄される。摂取されたLASの99%近くが、2日後に尿と糞として体外に排出される。7日後には100%排泄される。消化管から吸収されたLASは、多くの器官に分布するが、2日後には減少し、特定の器官、組織に蓄積されることはない。
一方、皮膚に接触したLASは、皮膚表面には付着し、24時間経ってもほとんど皮膚表面に留まっている。皮膚を通しても吸収されるが、その吸収率は低く、24時間で0.03%程度である。皮膚から吸収されたLASは血管に運ばれ、その後は経口摂取と同じ運命を辿る。

表 8-1  LASの生体内運命の試験結果
動物種等投与条件投与量結果文献
ラット
系統不明

150-200 g
35Sで標識
単回経口
(強制)
1.2 mg排泄:                  
投与量       排泄量(%)     
   (mg) 日数  尿  糞   計  
    1.2 1  53.7  22.5  76.2
        2   3.3  15.5  18.8
3 0.7 0.9 1.6
合計 57.7 38.9 96.6 


経口投与量の19%が未変化体のLASとして糞中に排泄


代謝:尿中の主な代謝
   スルホフェニルブタン酸
   スルホフェニルペンタン酸

Michael, 1968
ラット
Wistar

200-400 g
14C-LAS-Ca 14C-LAS-Na
35S-LAS-Na


単回経口
(強制)
2 mg/匹
2 mg/匹
15 mg/匹
吸収:血中濃度変化
14C-LAS-Ca、 14C-LAS-Naともに、
投与後15分で 血中に検出。
2時間目に 最大となる。
漸次減少して、
48時間後に ほぼ消失。
生物学的半減期は、
14C-LAS-Ca 10.8時間、
14C-LAS-Na 10.9時間。


分布:投与後
4時間  消化管とその内容物(胃と大腸の内容物)、膀胱で放射能濃度が高く、肝臓、腎臓、精のう、膵臓、肺の順に減少
48時間後 比較的高かったが、
168時間後には、
肝、腎、脾臓、大腸とその内容物に微量の放射能が検出、他の器官では検出限界以下。


代謝14C-LAS-Ca、 14C-LAS-Naともに、
24時間以内 尿・糞中にはLASの未変化体は存在せず、LASよりRf値の小さい、すなわち極性の強い代謝物が尿中に2つ、糞中に4つ検出


排泄14C-LAS-Ca、 14C-LAS-Naともに、
尿中排泄量と糞中排泄量は、ほぼ等しく、
7日目までに それぞれ投与量の約50%が排泄、呼気中への排泄なし。
                 
      排泄量合計(%)  
   14C-LAS-Ca   14C-LAS-Na  
24時間  89.0     91.5
48時間  95.6     99.4
7日間  96.3     100.9  

砂川ら,
1979

マウス
ICR
妊娠雌
10匹/群
妊娠3日目
単回経口
(強制)


HPLC法で
定量分析
10 mg/匹


(350mg/kg相当)
吸収:消化管で8時間以内に60%吸収。


分布:
4時間後 胃、小腸、肝臓、血中に検出。
8時間後  肝臓、血中の濃度は2倍に増加。
一方、胃腸では減少。腎臓に検出、卵  
巣、子宮では未検出。


代謝:肝臓でのLASの鎖長分布
4時間後  C10、C11成分の割合の減少
C12、C13成分は変化なし
8時間後  未変化体のLASは4.3%に減少


排泄:胃腸のC12、C13成分の含有率の若干の増加
(肝臓中の未代謝LASの腸肝循環を通して消化管への排出を示唆)
Koizumi
et al., 1985
アカゲザル
Macacca mulatta
雌雄
体重 5kg
2匹ずつ
14Cでベンゼン環を標識
単回経口
または
1日1回、7日間
(強制)




皮下注射
単回
または
1日1回、7日間
経口投与
単回:30、150、300 mg/kg
連続:30 mg/kg






皮下投与
単回:0.1、0.5、1
mg/kg
連続:1
mg/kg

経口投与
吸収: 血中濃度
単回:最大     4 時間後  
半減期   5.5 時間
      
連続:
 7日目投与後
最大    4 時間後  
半減期   6 時間


分布:連続投与終了
2時間後  胃で多く、その後減少。
次いで、腎臓、消化管、肝臓で多い
4時間後  腎臓、消化管、肝臓で減少
心臓、脳、生殖腺、眼、脾臓、甲状腺、下垂体、皮下脂肪で増加
24時間後  消化管では最大。
消化管を除いて、すべての器官で減少。48時間後  消化管で減少
LAS代謝物の器官特異的な蓄積、分布はない。


代謝:経口、皮下投与ともに、尿中にはLASの未変化体は殆どなく、LASより極性の高い代謝物5種が検出される。グルクロニダーゼ処理で変化しない。


排泄:単回(30 mg/kg)       
                  
       雄      雌
時間    尿  糞   尿  糞 
0-24   66.5  14.9 72.1 12.7
24-48 1.3 9.1 1.5 6.5
48-72 0.3 1.3 0.2 0.9
72-96 0.1 0.5 0.1 0.1
96-120 0.1 0.1 0.1 0.1 
計0-120 68.3 25.9 74.0 20.3
全回収率(ケージ付着分を含む)
       100.1     100.5  

Cresswell et al., 1978



皮下投与
吸収:  
単回:
            血中濃度(μg/mL)
0.1 mg/kg  最大 2h   0.16
      半減期 8h  
      72h後     0.01


排泄:単回(0.1 mg/kg)           
                     
          回収率 (%)     
        雄      雌   
時間    尿  糞   尿  糞  
0-24   55.1 4.9 50.3 1.6
24-48 5.9 4.8 10.4 4.3
48-72 2.2 2.0 2.9 0.7
72-96 0.4 0.5 0.5 1.9
96-120 0.2 0.3 0.2 0.7 
計0-120 63.8 12.5 64.3 9.2 
全回収率 (%)(ケージ付着分を含む)
       95.6 93.5

血中濃度(μg/mL)ラット
Wistar

100-120 g
3匹/群
14Cで1-アルキル基を標識した
DOBS


皮膚塗布




腹腔内、皮下注射
3 mM


0.2 mL
(2 mg/kg
相当:本評価書換
算)


1.0 mL
(1.02 mg)
吸収:15分間皮膚塗布、24時間後オートラジオグラフィー測定。皮膚表面と毛小胞の上部に沈着、真皮中には沈着なし。
   尿、糞、呼気中への排泄なし。
排泄
経皮投与では、尿、糞、呼気中への排泄なし。
腹腔内、皮下注射投与後24時間では
全投与量の
呼気中   0.1%以下
尿中    78     
糞中 1.5
胴体 22

Howes, 1975
ラット
SD
雄130-150 g


モルモット 200 g
35Sで標識
単回、
皮膚塗布




妊娠ラット
皮下注射
白色ワセリン混合液 0.3 mL




水溶液 
0.1 mL
各器官のLAS由来の取り込み率(10-4%)
                      
器官  ラット   モルモット  妊娠ラット
    皮膚塗布  皮膚塗布   皮下注射 
脳    5 1 20
肝 300 48 25000
脾臓 8 1 110
腎 80 28 2790
精巣 40 2 ND
心臓 14 2 110
血液 90 17 550
尿 ND 1000 453200 (45%)
合計 537 1099          

長谷川ら,
1978

ND, データなし.

8.2 疫学調査及び事例

これまでに職業暴露の報告はないが、家庭用洗剤の経口摂取による症例の報告がある。一方、家庭での使用による皮膚への影響をみた研究が数多くなされている。
経口摂取による外来患者例
32歳の女性が、含有率21%のLASを含む洗剤原液160 mL (163 g) を飲み込んだ急性中毒例の報告がある (市原ら, 1967)。症状として、錯乱、嘔吐、咽頭および口腔内疼痛、血圧低下の傾向が認められた。摂取後1時間で胃洗浄が行なわれたこともあって、これらの症状はいずれも軽度であり、速やかに回復した。 懸念された粘膜の腐蝕、糜爛などは、可視観察、また胃カメラ所見においても認められなかった (市原ら, 1967)。
他の例として、1974年から78年までの5年間の誤飲による急患215例の症例の報告があり、そのうち洗剤の誤飲は11例あった (弘長, 1979)。LASを主成分とする食器用洗剤の誤飲が4例、残り7例はそれぞれ違った洗剤であったが、調査した11例について問題となる症状はみられていない。

皮膚刺激性研究例
LASと市販洗剤のヒト皮膚刺激性試験結果を表 8-2 に示す。
1%LAS水溶液を24時間塗布投与したクローズドパッチテスト (閉塞貼付試験) で、紅斑及び亀裂を生ずるが、その1次刺激性は中等度という結果が得られている (大場ら, 1968)。一方、同様の条件でのテストで、無反応との報告もある (定井ら, 1979)。
他に、肌荒れを調べた研究報告がある。アルキル基の炭素数が8、12、14、16の4種のLAS (C8LAS、C12LAS、C14LAS 、C16LAS) (純度97~99%) を合成し、各々、1%LAS水溶液をガラス製カップに注入し、一日10分間、前腕内側に直接適用し、その後適用箇所を水洗いした。その適用を3日から4日間繰り返した後、皮膚反応を判定した。それぞれ、皮膚反応の程度の違う落屑と皮膚上層の乾燥を生じていた。その皮膚刺激性の強さは、C12LAS C8LAS C16LAS C14LASの順で、炭素数12の鎖長をもつC12LASの皮膚刺激性が最も強かった (Imokawa et al., 1975)。また、C10~C13のアルキル鎖を含む市販製品のLAS 1%水溶液を手の指間に、滴下速度1.2から1.5 mL/分、40分間を2日間にわたって滴下したところ、手荒れを生ずることが認められた (注1) (定井ら, 1979)。
手指皮膚炎で皮膚科を訪れた外来患者に対するLAS洗剤の貼付試験が行なわれた。LASの有効成分が15%の市販洗剤Kと25%の市販洗剤Fの原液を27人の患者に塗布したところ、陽性率が、それぞれ、48.1%、73.1%であった。別の24人の患者に0.2%に希釈した洗剤液を適用したところ、陽性率はともに0%であった。適正濃度に希釈した洗剤が手指皮膚炎の病巣を悪化させることはなかった (石原ら, 1967)。
台所用市販LAS洗剤の日常的な使用による皮膚影響を調べたフィールド試験がある。女性総数293名で、内訳は皮膚症状のない正常71名、非炎症角化症状がある214名、炎症性病変をもつ18名であった。1か月間の試験期間中、炊事時には素手で、それ以外はゴム手袋を着用した。試験前後で、変化のなかった人数は147名 (50.2%)、軽減した人119名 (40.9%)、悪化した人27名 (9.2%) であった。皮膚症状が認められた人の中に症状の軽減した人がいた (渡辺ら, 1968)。日常的なLAS洗剤の使い方では、皮膚症状の有無に関わらず皮膚への影響は少ないと考えられる。
同様な結果が、進行性指掌角皮症を含めた湿疹患者である女性160名に対して、食器用洗剤K を用いた貼付試験によって得られている。原液の0.2%水溶液0.04 mLをリント布に滴下し、背部に貼付した後、絆創膏で48時間固定した。その結果、2名に紅斑が認められ、陽性率は0.6%であった。陽性反応は、絆創膏剥離後1、2日の間に消失している (川村ら, 1970)。
同様に、進行性指掌角皮症患者10人と健常者11人に対して、LAS単品と他成分を含む食器用洗剤の影響が比較されている。患者の一般的な症状は、手指先端より病変が始まり、手掌に向かって進行し、皮膚の乾燥、指紋の消失、軽度の発赤、水仕事で悪化することなどである。クローズドパッチ法を用いて、平均鎖長が11.7のLAS水溶液と5%エタノール、8%尿素を含む食器用LAS洗剤0.1 mLを被験者の背部に48時間貼付し、除去1時間後と24時間後に判定された。健常者へ0.04%のLAS単品及び市販洗剤を適用したところ、皮膚反応の陽性率はともに0%であったが、0.4%適用で各々0、18.2%であり、4%ではともに36.4%であった。各濃度で患者の皮膚反応陽性率が健常者を上回ったが、陽性反応の点数評価 (平均刺激性) を行なったところ、患者の方が健常者を上回るか、または等しくなり、統計的に有意差はなかった (岡本ら, 1976)。
アトピー性皮膚炎患者 (20名) に対してLASの皮膚刺激性が調べられた。被験者の皮膚症状のない背部にLAS及び市販洗剤の48時間クローズドパッチテストを行なった。LAS 10~1,000 ppmの各濃度で1~2例ずつ軽微な紅斑が認められたが、濃度に依存した皮膚反応ではなかった。それ以外では、洗濯済みのTシャツの貼付で軽度の紅斑が1例認められた。パッチテストの結果、1,000 ppm(0.1%)LAS適用でわずかに紅斑を認めたのは20人中1人であり、1,000 ppm(0.1%)市販洗剤では皮膚反応はみられなかったことから、LASのアトピー性皮膚炎患者の皮膚に対する刺激性は低いと考えられている (鈴木ら, 1999)。

注1)皮膚反応の評価基準の一例(定井ら, 1979)
一次刺激性パッチテスト) 判定  評点         肌荒れ、手荒れ(滴下法) 荒れの範囲(%) 評点



表 8-2  LASと市販洗剤のヒト皮膚刺激性試験結果
性別・年
LAS(組成、含有率) 試験法
適用法
適用量 適用期間 結果文献
男性7名 分子量
346.5
100%
クローズドパッチテスト:
上腕伸側
及び前腕
屈側適用
パッチ除去1時間後に判定
1%水溶液
pH6.8)、5滴
24時間
適用
中等度の紅斑及び亀裂 大場ら,
1968
男女不明
年齢不明
8人
C8LAS
C12LAS
C14LAS
C16LAS
97-99%
循環法:
前腕内側
に適用
1%水溶液 40℃、
10分間/
回/日
3-4日間
落屑と皮膚上層部の乾燥
その程度は、
C12LASC8LASC16LAS
C14 LAS
の順。
Imokawa
et al.,
1975
被験者数不明 C10-C13
含有率
不明
クローズ
ドパッチ
テスト:
上腕屈側
に適用、除去後24
時間目に
判定
濃度1%
適用量不明

24時間

一次刺激性
無反応

定井ら,
1979
滴下テス
ト:
左右両手の
指間部に滴
下適用


滴下後1日
目に判定
濃度1% 1.2-1.5 ml/分、40分/日、10分毎に
温風乾

2日間
手荒れ性: 
軽度の落屑

皮膚科
外来患者
24-27名
市販洗剤K:
LAS 15%


洗剤F:
LAS 25%
尿素20% 
パッチテスト
前腕屈側
詳細不明
原液及び
0.2%希釈液
詳細不明 原液:  陽性率
洗剤K   48.1%
洗剤F   73.1%


0.2%希釈液:   
洗剤K    0%
洗剤F    0%

石原ら,
1967
女性293

皮膚所見
正常71名
非炎症角
化変化
214名
炎症性病
変 18名
市販台所用
洗剤
炊事時には素手、それ
以外はゴム
手袋着用
不明 1か月間 試験後の症状変化:
293人中
    人数 割合(%)
不変  147  50.2
軽減  119  40.9
悪化   27   9.2

渡辺ら,
1968
湿疹女性
患者
160名
食器用洗剤
洗剤K
クローズドパッチテス
ト:
リント布に
約0.04 mL
を滴下し背
部に貼付。
0.2%



48時間
固定。
剥離、15
-30分後判定
陽性率0.6%の陽性反応。
陽性反応は剥離後1、2日の間に消失。
川村ら,
1970
進行性指
掌角皮症
患者10名


健常11名
LAS:
含量 19.7%
鎖長 C11.7
分子量 344


食器用洗剤(含有率)
LAS 19.9%
尿素 8.0%
エタノール
5.0%
α-リモネン
0.1%
クローズド
パッチテス
LAS
食器用洗剤
ともに
LAS濃度で
0-4.0%

mL
リント
布に滴
下、
背部に3濃度を
48時間
貼付、
除去1、
24時間
後判定
皮膚反応陽性率(%):
濃度(%) 患者 健常人
LAS
0.04   10   0
0.4   20 0
4.0 60 36.4


食器用洗剤
0.04   20   0
0.4   10 18.2
4.0 60 36.4


各濃度で、患者と健常人の間に陽性率の統計的有意差なし。

岡本ら,
1976
アトピー性皮膚炎患者
20名
LAS及び
市販洗剤
クローズドパッチテスト:

10-1,000 ppm 背部に
48時間
適用、
除去1、
24時間
後判定
10-1,000 ppm
各濃度で1-2例の軽微な紅斑
洗濯済みのTシャツの貼付で軽度な紅斑1例
鈴木ら,
1999



皮膚感作性試験
LASと市販洗剤を用いて、反復適用パッチテストによる遅延型接触アレルギー性試験が行なわれている。0.01~0.113%のLAS、またはLAS濃度にして0.001~0.09%の洗剤を上腕外側に24時間貼付し、1日置きに週3回、3週間経皮適用した。その後、14~17日後に24時間感作誘発し、24及び72時間後に皮膚反応の判定が行なわれた。LASの被験者2,294人、洗剤の被験者17,887人のうち、皮膚感作反応を示した人はいなかった (Robinson et al., 1989)。この結果は、LASはヒトに対して皮膚感作性をもたないことを示している。

8.3 実験動物に対する毒性

8.3.1 急性毒性

LASの急性毒性試験結果を表 8-3 及び付表1に示す。
LASを用いた経口投与LD50は、マウスにおいて1,665~3,400 mg/kgであり、ラットでは404~1,900 mg/kg であった。皮下投与では、マウスにおいて1,250~1,550 mg/kg、ラットでは710~840 mg/kg であり、静脈注射では、マウスにおいて98~298 mg/kg、ラットでは27~126 mg/kg であった (Oser and Morgareidge, 1965; 伊藤ら, 1978; 小林ら, 1972; 千葉, 1972; 柳沢ら, 1964)。Wistarラットの経口投与実験で、6、7、10週齢と齢を経ると、雌雄のLD50が760~873 mg/kg、659~670 mg/kg、404~409 mg/kgと下がる傾向がみられた (小林ら, 1972)。
家庭用に用いられる市販LAS洗剤は、LAS単品として用いられることはなく、洗浄効果を高めるための助剤を含んでいる。1970年代当時、多く用いられた市販洗剤である洗剤Kと洗剤Mの2種類について、経口投与の急性毒性がマウスを用いて調べられた。LAS成分に換算されたLD50は、2種類とも1,250~1,560 mg/kgであり、差はなかった。これらの値は、LASLD50に近いことから、助剤などの他成分が毒性をもつことは少ないと考えられた (付表1) (桑野ら, 1976)。


表 8-3 LASの急性毒性試験結果

マウスラット
経口LD50 1,665-3,400 mg/kg404-1,900 mg/kg
皮下LD50 1,250-1,550 mg/kg710-840 mg/kg
静脈内LD5098-298 mg/kg27-126 mg/kg

8.3.2 刺激性及び腐食性

LASの皮膚及び眼刺激性試験結果を表 8-4 に示す。
1) 皮膚刺激性
雄Wistarラットの剃毛した背部に0、20、30%のLAS 0.5 gを1日1回15日間塗布した。その結果、20%群に紅斑及び浮腫が認められた。2~3日目に湿潤性の痂皮を生じたが、5~6日目に剥離した。また、体重の増加が抑制されたが、死亡例はなかった。30%群では、紅斑及び浮腫を生じ、1~2日目に湿潤性の痂皮が生じ、4~5日目に剥離した。体重減少がみられたが、死亡例はなかった。組織所見では、背部の皮膚の表皮から真皮上層にかけて強い壊死が認められた (定井ら, 1972)。
2) 眼刺激性
雄ウサギを用いた眼刺激性試験において、0~5%のLAS濃度の溶液を0.1 mL点眼し、時間を追って症状を観察した (飯森ら, 1972; 大場ら, 1968)。0.01%では影響が認められなかった。0.05%では3時間以内に結膜、眼粘膜に軽度の充血、0.1%では軽度の浮腫が認められたが、24時間後には回復した。1%では、結膜の充血と浮腫は24時間後も持続したが、48時間後には消失した。さらに、高濃度の5%溶液を点眼したところ、激しい症状が認められた。点眼直後、瞬膜が角膜全域に広がり、しばらくして激しい瞬きと分泌物の分泌亢進が生じた。結膜の浮腫は、10分までに全域を被い、24時間後も持続したが、5日間後には消失した。結膜の充血は、当初、浮腫に隠れて観察されなかったが、24時間後には血管が見えないほどに強度をまし、5日後までには回復した。24時間後には、角膜の軽度の混濁、虹彩の充血がみられたが、4日目までには回復した (飯森ら, 1972)。この結果は、5%溶液、0.1 mLの点眼で、LASは強い刺激性を持つこと、しかし、症状はやがて回復することを示している。実験から求められた眼刺激性に対するLASの無影響量 (NOEL) は、0.01%である (大場ら, 1968; 飯森ら, 1972)。

以上の結果、LASは、ラットの累積皮膚適用で皮膚刺激性及び腐食性を示し、また、ウサギに対して一過性の強い眼刺激性を有する。


表 8-4  LASの皮膚及び眼刺激性試験結果
動物種等試験法
投与方法
LAS
(含有率、
鎖長)
投与期間投与量結果

文献
ラット
Wistar
累積皮膚適用


剃毛した背部に塗布
99.9%
C11.8
(C10-C14)
1日1回
15日間
0、20、30% 0.5 g20%群: 紅斑及び浮腫。2~3日目に湿潤性の痂皮形成、5~6日目に剥離。
30%群: 紅斑及び浮腫。1~2日目に湿潤性の痂皮、4~5日目に剥離。
組織所見で、背部の皮膚の表皮から真皮上層にかけて強い壊死。
定井ら, 1972
ウサギ
系統不明




反応閾値
試験
点眼後、
24時間観察



100%



単回投与





0、0.01、0.05、0.1、0.5、1%
(0.1 mL点眼)

0.01%: 影響なし
0.05%:眼粘膜の軽微な充血(2時間以内)
0.1%:粘膜に浮腫
(2時間以内)
0.5 mg以上: 浮腫を伴った強度の充血、流涙
(24時間持続)


NOEL: 0.01%
大場ら, 1968
ウサギ
系統不明
白色、


ドレイズ

168時間観察









80.9%
(C11-C13)



単回投与











0 、0.01、0.05、0.1、0.5、1、5%
(0.1 mL点眼)
0.01%: 影響なし
0.05%: 
3時間以内
結膜、眼粘膜に軽度の充血、流涙
0.1%: 
2時間以内
結膜、眼粘膜の充血と軽度の浮腫
やや激しい瞬き
 24時間で
  回復
0.5%: 
0.1%の症状より程度が高く、24時間後も結膜に軽度の充血
1%: 
30分以内
結膜、眼粘膜の充血と軽度の浮腫
48時間で
回復
5%: 
点眼直後
瞬膜が角膜表面を覆う激しい瞬き
分泌物の亢進
 10分までに
結膜全域に浮腫
3時間以内
 強度浮腫のため充血観察できず
24時間前後
血管を認めないまでの強度充血
96-120時間までに
結膜の浮腫及び充血の回復。


NOEL: 0.01%(0.01 mg相当)
飯森ら, 1972

8.3.3 感作性

モルモットを用いたマキシマイゼーション法とビューラー法による製造番号の異なる2つの市販LAS試料 (Lot AとLot B) の感作性試験結果を表 8-5 に示す。
マキシマイゼーション法の結果は、Lot AのLASを皮内投与5%、皮膚適用0.25%の適用で、陽性反応を示した個体の割合が65%であり、Lot Bでは皮内投与0.625%以上、経皮適用0.125%以上の適用で、陽性の割合が45%以上であったことを示している。一方、ビューラー法の結果は、1%以上の皮膚適用で、陽性反応の割合がLot Aでは5%であり、Lot Bでは0%であったことを示した。ヒトによる感作性試験でLAS感作性は陰性という結果 (Robinson et al., 1989) を考慮して、ビューラー法の結果を採用し、モルモットに対するLAS感作性は陰性から軽微と著者は結論づけている (Robinson et al., 1990))。
以上の結果、マイキシマイゼーション法では陽性を示しているので、LASはモルモットに対して感作性を有すると判断する。

表 8-5 LAS感作性試験結果
動物種等LAS
(含有率、鎖長)
試験法
投与方法
適用期間適用量結果文献
モルモット
性別・週齢
不明
20匹/群

2種類
(A,B)


含有率、
鎖長
不明
マキシマイゼーション法
皮内注射
及び
皮膚適用





記載なし







Lot A:
皮内 0、5%
経皮 0、0.25
Lot B:
皮内 0、0.625
1.25、2.5
経皮 0、0.125
0.25、0.5
陽性個体数
皮内注射  対照  適用
Lot A  5%   0/10 13/20


Lot B  0.625  0/10 9/20
 1.25   1/10 10/20
  2.5   2/10 13/17


感作性の程度は中等度から強度
Robinson
et al., 1990
ビューラー法
皮膚適用



6時間貼付、
週1回、
3週間



経皮適用
Lot A: 0、1%
Lot B: 0、1.25、
2.5 %

陽性個体数
       対照  適用
Lot A 1%   0/10 1/20
Lot B 1.25 0/10 0/20
2.5   0/10 0/20
感作性の程度は陰性から軽微


8.3.4 反復投与毒性

経口、経皮経路によるLAS反復投与毒性試験がある。投与期間に幅があるので、1年未満と1年以上の結果を分けて記す。

(1)反復投与毒性-1年未満
LAS反復投与毒性試験結果-1年未満を表 8-6 に示す。
ICRマウスに、LASを0.6%混合した餌を9か月間与えたところ、雄マウスの肝臓の絶対及び相対重量が対照群と比べて有意に増加した。一方、肝臓の乳酸脱水素酵素 (LDH) 活性の有意な低下が認められた。雌の肝臓の相対重量は増加していた。雌雄とも腎臓のグルコース-6-ホスファターゼ (G6Pase) 活性は減少した。また、9か月間飲水投与した場合は、0.07%で雄の体重と肝臓の絶対重量の増加、雌の肝臓相対重量の増加がみられた。また、雌雄の腎臓のG6Pase活性は有意な減少を示した。LASの摂取量は、飲水摂取で雄は93 mg/kg/日、雌106 mg/kg/日に相当し、混餌摂取では雄は545 mg/kg/日、雌493 mg/kg/日に相当する (米山ら, 1972)。
雄のWistarラットに250 mg/kg/日でC12 (9-15)LASを混餌投与したところ、12週間 (約3か月間) 摂取で影響はみられなかった (Oser and Morgareidge, 1965)。
雄のWistarラットに0.07% (37.2 mg/kg/日相当) でC11.8 (10-14)LASを26週間 (約6か月間) 混餌投与したところ、腎臓の一部に糸球体血管腔の拡張などの軽度な異常がみられたが、0.2%摂取で盲腸絶対重量の増加、0.6%では軽度の体重増加抑制、腎臓糸球体の萎縮といった腎臓の組織障害などの毒性が認められた。これらの結果から、著者は0.07%がNOAELであると判定している (米山ら, 1972)。9か月間の摂取では、3か月間の無影響量にほぼ等しい0.6% (234 mg/kg/日相当) 摂取で白血球数の減少、肝臓のLDH活性の減少などの毒性を生じた (米山ら, 1976)。以上の結果は、LAS標的器官は肝臓及び腎臓であることを示唆している。
一方、雌ラットに、250 mg/kg/日でC12 (9-15)LASを混合した餌を約3か月間投与したところ、肝臓の相対重量の増加がみられているので、3か月でのNOAELは50 mg/kg/日 (Oser and Morgareidge, 1965)、6か月のNOAELは37.2mg/kg/日と求められている (米山ら, 1972)。
雌雄のSDラットへのC11.7LAS 125 mg/kg/日 の1か月間の強制経口投与で、3週目頃から軟便となり、雄では体重増加抑制がみられた。250、500 mg/kg/日と投与量を増すと、軟便や下痢の発現時期が早まり、500 mg/kg/日では体重増加抑制、腎臓、心臓、胸腺の絶対重量低下など、LASの顕著な影響が認められた。6か月 (26週間) の経口投与では、150 mg/kg/日では血清総タンパク質、アルブミン量の減少など生化学的所見に若干の変動がみられたが、長期的な障害及び体重増加への影響はなかった。しかし、300 mg/kg/日群に若干の体重増加抑制が認められた。経皮適用では、5%群の雌に軽度の皮膚1次刺激性がみられた他は、成育、機能、形態学的に異常はみられなかった (伊藤ら, 1978)。
ヒトがLASを口と皮膚から同時に吸収する可能性を想定して、雌雄のアカゲザルに対して、LASの1か月間の強制経口と皮下注射による投与が同時に行なわれた。その結果、経口30 mg/kg/日と皮下0.1 mg/kg/日の投与ではみられなかったが、経口150 mg/kg/日と皮下0.5 mg/kg/日の同時投与で嘔吐と軟便を生じた。一方、体重、摂食量、摂水量は経口300 mg/kg/日と皮下1.0 mg/kg/日の投与でも影響されなかった (Heywood et al., 1978)。
以上の結果から、1年未満のLASの反復投与では、マウスに対して9か月飲水投与でのLOAELは93 mg/kg/日であり、ラットでは6か月間経口投与NOAELは150 mg/kg/日であり、経皮適用のNOAELは5 mg/匹/日である。アカゲザルの28日間経口と経皮の同時適用のNOAELは経口300 mg/kg/日と皮下1.0 mg/kg/日である。
他に、ブタ、ウサギ、ニワトリへのLASの毒性を調べた報告がある。200 mg/Lの市販LAS洗剤水溶液を、ハンプシャー及びヨークシャー種のブタ (平均体重24 kg) に15日間、ニュージーランドホワイト種のウサギ (45日齢、平均体重3.2 kg) に15日間、ニワトリ (雌、レグホン種、10か月齢、体重不明) に45日間飲水投与したところ、対照群と比べてブタ及びニワトリの摂餌量、ブタ及びウサギの体重増加に有意差はなかった。ニワトリの産卵量、卵成分にも差がなかった (Lopez-Zavala et al., 1975)。

表 8-6 LAS反復投与毒性試験結果-1年未満
動物種等LAS
(含有率、
鎖長)
投与
方法
投与
期間
投与量結果文献
マウス
ICR
雌雄
4-週齢

60%
鎖長不明
経口
(混餌)




(飲料
水)

9か月混餌: 0、0.6%(雄, 0、545
mg/kg/日
相当; 雌, 0、493
mg/kg/日
相当)
飲料水: 0、0.07、0.2、0.6%(雄, 0、93、278、585
mg/kg/日相当;
雌, 0、106、248、935
mg/kg/日相当)
混餌:
0.6%: 
雌雄: 肝臓の相対重量の増加、腎臓G6Pase活性の減少、
雄: 体重増加、肝臓の絶対重量の増加、LDH活性の低下、
 
飲料水:
0.07%:
雌雄: 腎臓G6Pase活性の減少、
雄: 体重増加、肝臓の絶対重量の増加、
雌: 肝臓の相対重量の増加、
0.2%:
雌雄: 肝臓の相対重量の増加、腎臓G6Pase活性の減少、
雄:  体重増加抑制傾向、
0.6%: 
雌雄: 体重増加の抑制、肝臓の相対重量の増加、腎臓G6Pase活性の減少、
雄: 肝AST活性の低下

米山ら,
1976 

ラット
SD
雌雄
6週齢
12匹/群

99.5%
C11.7

経口
(強制)




29日間

30日間
雌雄: 0、125、250、500
mg/kg/日
125 mg/kg:
雄: 3週目頃から一部軟便、体重増加抑制、血清Ca2+の減少
雌: 3週目頃から軟便、血清総タンパクとアルブミン値の低下
250 mg/kg:
雄: 2週目頃から軟便の繰り返し、体重増加抑制、血清Ca2+の減少
雌:  2週目頃から軟便の繰り返し、血清総タンパクとアルブミン値の低下、血清Ca2+の減少
500 mg/kg:
雌雄: 投与数時間後で運動抑制、数日後から下痢、
体重増加抑制、肺、腎臓、心臓、胸腺の絶対重量の減少、前胃部の胃壁の肥厚と腹膜部の毛細血管の新生、血清Ca2+の減少
伊藤ら,
1978
ラット
Wistar
雌雄
離乳児

39.5%
C12
(C9-C15)

経口
(混餌)
12週間雌雄: 0、50、250 mg/kg/日相当
250 mg/kg/日:
雄: 影響なし
雌: 肝臓の相対重量の増加


NOAEL:250 mg/kg/日(雄)
     50 mg/kg/日(雌)
Oser &
Morgareidge, 1965
ラット
Wistar
雌雄
4 週齢

60%
C11.8
(C10-C14)

経口
(混餌)
26週間
(6か月)
0、0.07、
0.2、0.6、
1.8%
(雄:0、
37.2、101.5、
322.3、
814.8 mg/kg/日相当;雌:0、39.4、108.7、332.2、913.0 mg/kg/日相当)
0.07%: 
雌雄:  腎臓の一部の軽度な異常(糸球体血管腔の拡張と間質の膨化)
0.2%:
雌雄: 盲腸の絶対重量の増加、腎臓の一部の異常(糸球体血管腔の拡張と間質の膨化)
0.6%:
雌雄: 軽度の体重増加抑制、盲腸の絶対重量の増加、貧血と白血球数増加傾向、血清のアルカリフォスファターゼ活性の増加、総タンパク量の低下、腎糸球体の障害
1.8%:
雌雄: 下痢、著明な体重増加抑制、盲腸の絶対及び相対重量の増加、貧血と白血球数増加傾向、血清のアルカリフォスファターゼ活性の増加、総タンパク量の低下、腎糸球体及び尿細管の障害


NOAEL
0.07%(37.2 mg/kg/日)(雌雄)
米山ら,
1972
ラット
SD
雌雄
5週齢
20匹/群

LAS-Mg
99.5%
C11.7

経口
(強制)









26週間
(6か月)
0、75、150、300 mg/kg/日







150 mg/kg/日: 
雄: 胸腺の相対重量の増加。前胃部肥厚と粘膜表面部黄色痂皮形成血清総タンパク、アルブミン量の減少、血清Ca2+の減少、
雌: 腎臓の相対重量の減少
300 mg/kg/日: 
雄: 若干の体重増加抑制、肝臓、脾臓の萎縮、鼓腸、胸腺及び下垂体の相対重量の増加、前胃部肥厚と粘膜表面部黄色痂皮形成
5週目で好中球分葉球の減少、リンパ球の増加、13週目で好中球分葉球の増加、リンパ球の減少、6か月目で変化なし。血清ビリルビン、総タンパク、アルブミン量の減少、
雌: 13週目でヘマトクリット値の低下、好塩基球の減少、6か月目でもヘマトクリット値の低下、s- ALT値の低下、血清Ca2+の減少、肝臓及び胸腺絶対重量の増加、心臓絶対重量の減少、腎臓及び心臓の相対重量の減少


NOAEL 150 mg/kg/日(雌雄)
伊藤ら,
1978
ラット
SD
雌雄
5週齢
20匹/群
LAS-Mg
99.5%
C11.7
経皮26週間
(6か月)

0、0.5、1.0、5.0 %
(0、0.5、1.0、5.0 mg/匹/day相当)
0.5%: 
雄: 6か月目で体重増加の僅かな抑制
1.0%: 
雄: 6か月目で白血球数の減少、血清総タンパク、アルブミン量の減少、
雌: 6か月目で白血球数の減少、
血糖値の低下
5.0%: 
雄: 1週間後、半数に軽度の発赤、2週間後に落屑、消失、5週目でヘマトクリット値の上昇、13週目以降変化なし。13週目に赤血球数、ヘモグロビン量の増加。しかし、6か月目には、変化なし。血清総タンパク、アルブミン量の減少、血清Ca2+の減少、
雌: 1か月後、軽度の発赤、その後1週間で消失。13週目に好塩基球の減少、6か月目で白血球数の減少、血糖値の低下、コレステロール値の上昇


 NOAEL 5.0 mg/匹/day(雌雄)
伊藤ら,
1978
ラット
Wistar
雌雄
4週齢
8-9匹/群

60%
鎖長不明

経口
(混餌)


(飲料
水)

9か月混餌: 0、0.6、1.8%
(雄, 0、234、747 mg/kg体重/day相当; 雌, 0、287、969 mg/kg体重/day相当)




飲料水: 0、0.07、0.2%
(雄, 0、51、148 mg/kg体重/day相当; 雌, 0、82、173 mg/kg体重/day
相当)

混餌: 
0.6%: 
雌雄: 総コレステロール量、ASTの減少傾向、G6PDH活性の減少、
雄: 白血球数の減少、ALT活性の減少傾向、肝LDH活性の減少、
雌: 血中ALTの減少。
1.8%:
雌雄: 雌雄ともに体重増加が有意に抑制、総コレステロール量は有意な減少、ALT活性の減少傾向、肝G6Pase活性の減少、G6PDH活性の減少
雄: 赤血球数とヘマトクリット値の減少、血中ASTの減少、アルブミン量の減少、肝LDH活性の減少、肝臓の絶対重量の減少、肝臓の相対重量の増加、脾臓の絶対及び相対重量の減少
雌: 平均赤血球容積、平均ヘモグロビン量の減少、ASTの減少傾向、アルブミン量の減少傾向、肝LDH活性の減少傾向、腎臓G6Pase、LDH、 
Na,K-ATPase活性の減少、肝臓の絶対及び相対重量の増加


飲料水:
0.07%:
雌雄: 血中ALT、ASTの減少傾向
雄: 総コレステロール量の減少傾向
雌: 体重増加の抑制傾向、
0.2%:
雌雄: 総コレステロール量は有意な減少、血中ALT、ASTは減少傾向
雄: 体重増加抑制、アルブミン量の減少傾向、肝LDH活性の減少、腎臓Na,K-ATPase活性の低下
雌: 体重増加の抑制傾向、
腎臓Na,K-ATPas活性の低下傾向
米山ら,
1976
アカゲ
ザル
Macacamulatta
雌雄
18-36月

3匹/群
20.5%
C10-C13

経口
(強制)
及び
皮下
の同時
投与



28日間経口: 0、30、150、300 mg/kg/日;
皮下: 0、0.1、0.5、1.0
mg/kg/日
(経口30, 皮下0.1) mg/kg/日: 
雌雄: 皮下注射痕の炎症性細胞浸潤、体重、摂食、飲水量影響なし
(150, 0.5) mg/kg/日以上:
雌雄: 皮下注射痕の炎症性細胞浸潤、体重、摂食、飲水量影響なし、頻繁な嘔吐及び軟便

Heywood
et al., 1978

(2)反復投与毒性-1年以上
LAS反復投与毒性試験結果-1年以上を表 8-7 に示す。
5週齢の雌雄のWistarラットに0、0.04、0.16、0.6%のLAS (平均鎖長11.8) を添加した混餌を2年間以上生涯にわたって自由に摂取させた。その結果、0.6%群で、肝臓と盲腸の絶対重量の軽度な増加、血清、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT)、アルカリホスファターゼ (ALP) 活性の軽度の上昇などを認めたが、摂餌量、体重増加、一般状態、死亡率の推移、平均生存期間には差がなかった (米山ら, 1977)。病理組織学的検査をしたところ、1か月目に肝細胞の増生、尿細管上皮の腫脹がみられたが、3か月以降は肝細胞の増生は消失し、最終的には肝臓,腎臓共に摂取と関連した組織障害像及び腫瘍発生は認められなかった。これらの結果から、著者は、LAS 0.6%添加餌の生涯摂取ではラットに肉眼的・組織学的障害を引き起こすような著明な有害性影響を及ぼさないと結論し、NOAELは0.6%であるとしている。この摂取量を体重及び一日当たりの摂餌量に換算すると300 mg/kg/日に相当する (藤井ら, 1977)。
飲料水に0、0.01、0.05、0.10%のLAS (鎖長不明) を加え、雄のWistarラットに2年間自由に摂取させた。各投与群と対照群とも順調に発育し、摂水量に差はなかった。以上より、NOAELは最大投与量である0.10%であり、測定された飲水量から200 mg/kg/日相当と求められた (千葉, 1972)。
経皮投与された場合のNOAELが求められている。LAS (19.7%, 鎖長不明) 0、0.005、0.025、0.125 mL (0、1、5、25 mg/匹/回) を週3回塗布、翌日微温湯でふき取ることを繰り返して、2年間投与した。0.025 mL投与では、雌雄ともに対照群との差はなく、影響がなかった。0.125 mLの投与では、雌雄に体重増加の抑制と回復、投与部位の発赤と硬化、3~4日後に痂皮が形成され、10~14日後には正常に回復した。この皮膚症状がLAS投与に由来した症状であるが、回復したので毒性影響と考えられず、0.125 mLを無毒性量とした。このNOAELは57 mg/kg/日に相当すると換算されている (谷口ら, 1978)。

以上の結果から、LASは、経口及び経皮経路における2年以上の反復投与でラットに対して実験最高投与量で有害な影響を生じていない。その結果、各経路のNOAELの上限は求められていないが、本評価書では、最高投与量をNOAELと判断する。各経路におけるNOAELは、C11.8LASの混餌の経口投与で300 mg/kg/日 (米山ら, 1977; 藤井ら, 1977)、LAS (鎖長不明) の飲水投与では200 mg/kg/日 (千葉, 1972) であり、LAS (鎖長不明) の経皮投与の場合、57 mg/kg/日 (3日/週) である (谷口ら, 1978)。そこで、混餌投与のNOAELである300 mg/kg/日の値は、現時点での無毒性量の上限であると考えるとともに、食事を介したLASの摂取がヒト暴露の主な経路であることを考慮して、300 mg/kg/日を経口投与によるLASNOAELとする (米山ら, 1977; 藤井ら, 1977)。


表 8-7 LAS反復投与毒性試験結果-1年以上
動物種等LAS
(含有率、
鎖長)
投与
方法
投与
期間
投与量結果文献
ラット
Wistar
雌雄
5週齢
60%
C11.8
(C10-C14)

経口
(混餌)
生涯

00.040.160.60% (雌雄: 02080300 mg/kg/日相当)0.04%: 
:  AST活性の上昇。
: 3か月目に右腎臓の相対重量
の増加
0.16%:
: 1か月目に脾臓の相対重量の
増加
: 24か月目に盲腸の相対重量の減少
0.6%:
雌雄: 生存期間、摂餌量、対照群と有意差なし、期間中盲腸の絶対重量の増加傾向
:  24か月目の死亡率の低下、ALT活性の上昇、ALP活性の上昇傾向、BUN値の低下、1か月目に肝臓の相対重量の増加
:  3か月目に左腎臓の相対重量の増加、期間中肝臓絶対重量の増加傾向、24か月目に左卵巣の相対重量の減少


NOAEL:
0.6% (300 mg/kg/日) (雌雄)
米山ら,
1977
ラット
Wistar
雌雄
5週齢
60%
C11.8
(C10-C14)

経口
(混餌)
生涯

0、0.04、0.16、0.6%
(雌雄: 0、20、80、300 mg/kg/日相当)
0.16%以上:
雌雄: 1か月目に肝細胞の増生、腎臓の近位尿細管の上皮細胞の軽度な腫脹と管腔の軽度な狭窄、3か月以後、肝細胞の増生の消失、最終的に著明な肉眼的・組織学的障害なし


NOAEL:
0.6% (300 mg/kg/日) (雌雄)

藤井ら,
1977
ラット
Wistar

180 g
34.55%
鎖長不明

経口
(飲水)
2年間0、0.01、0.05、0.10% (0、20、100、200
mg/kg/日相当)
各投与群と対照群とも順調な発育、摂水量に差なし


NOAEL:
0.10% (200 mg/kg/日) (雄)

千葉,
1972
ラット
Wistar
雌雄
7週齢
19.7%
鎖長不明
経皮


週3回塗布、翌日微温湯でふき取り
2年間0、0.005、
0.025、0.125
mL (0、1、5、25 mg/匹相当)

0.125 mL:
雄: 投与直後から体重増加の抑制、18週目以降回復。
投与部位の発赤と硬化、3-4日後に痂皮形成と10-14日後正常回復。
雌: 30-70週間に軽度の体重抑制、その後回復。
投与部位の発赤と硬化、3-4日後に痂皮形成と10-14日後正常回復。


NOAEL:
0.125 mL (57 mg/kg相当) (雌雄)
谷口ら,
1978

太字はリスク評価に用いたデータを示す。

8.3.5 生殖・発生毒性

LAS生殖・発生毒性試験結果を表 8-8 に示す。
妊娠ICRマウスまたは妊娠WistarラットにLASを皮下投与したところ、児動物に催奇形性が認められたという報告がある (三上ら, 1976)。一方、LAS経皮投与では、マウス、ラット、ウサギの母動物に毒性を示したが、児動物に対して催奇形性を示さなかったという報告がある (Palmer et al., 1975)。
このLAS催奇形性について、1978年、三上らの研究の追試が当の三上らを含めた4研究グループによって行なわれた。妊娠Wistarラットの背部に0、1、5、20%LAS (平均鎖長11.7) 水溶液、0.5 mLを1日1回、妊娠0~20日塗布投与し、21日目に帝王切開した。20%投与された母ラットの体重増加が顕著に抑制され、1グループから足根骨及び腰椎骨平均化骨数の減少及び棘突起異常の増加といった骨格異常の報告があったが、外表、骨格及び内部器官における奇形児は4グループとも認めなかった。この合同研究の結果、LAS催奇形性は否定された (西村ら, 1978; 吉田, 1983)。他に、妊娠Wistarラットを用いて同様な試験が行なわれ、LAS (鎖長11.7) は催奇形性をもたないことが報告された (Daly and Schroeder, 1980)。
生殖・発生毒性に関して、マウス、ラット、ウサギの生殖・発生に対するLASの毒性を調べた報告がある (Palmer et al., 1975)。妊娠したICRマウス、SDラットとNZWウサギに0、0.03、0.3、3.0%のLAS (鎖長不明) 溶液を1日1回、マウスでは妊娠2~13日の間0.5 mLを、ラットでは妊娠2~15日の間0.5 mLを、またウサギでは妊娠1~16日の間10 mLを経皮投与した。日常の使用濃度に相当する0.03%投与では、対照群と比べて3種の母動物に影響はなく、児動物の同腹数、胎児死亡率に有意差はなかった。0.3%投与で、母マウスに皮膚刺激反応を示し、児マウスの同腹児数の若干の減少、胎児死亡率の増加が認められた。3.0%投与では、母マウスにおいて体重の減少、不妊娠率の増加と生存児数の減少などの顕著な母体毒性が認められ、母ウサギでは体重が減少し、胎児死亡率の増加傾向がみられたが、対照群と有意差はなかった。母ラットでは体重変化はなかったが、紅斑と浮腫を生じた。しかし、それも妊娠4~5日にピークとなり、その後回復した。児動物についてみると、0.03%以上の投与で、3種の児動物に形態異常、内部器官異常、骨格奇形率は対照群と有意差は認められなかった。3.0%投与で、マウスでは生存児数が少なく、口蓋裂などの奇形が検査できなかったが、骨格奇形率は対照群と有意差がなかった。ラットとウサギには、形態異常、内部器官異常、骨格奇形率は対照群と有意差がなかったが、ラットの生存胎児の体重増加が認められた。これらの結果から、マウス、ラット、ウサギに対してLAS催奇形性を示さなかったと、著者らは結論している (Palmer et al., 1975)。しかし、実験に用いられたLASの含有率、鎖長が不明であるので、本評価書では、これらの結果から生殖・発生毒性NOAELは推定出来ないと判断する。
上述したLASの催奇性に関する4グループ合同研究の結果から、催奇形性を除いた生殖・発生毒性の知見が得られている。妊娠Wistarラットの背部に0、1、5、20%LAS (平均鎖長11.7) 水溶液、0.5 mL (0、21、107、427 mg/kg/日相当: 本評価書換算) を1日1回、妊娠0~20日塗布投与し、21日目に帝王切開した。母動物では、5%塗布群で塗布部位の皮膚の発赤、肥厚 (研究グループ数で3/4) を示し、軽度の皮膚炎を生じた。脾臓重量の減少 (1/4)、副腎の重量増加 (1/4) も観察された。20%群で塗布部位の皮膚の発赤、肥厚、痂皮形成の顕著な一次性接触皮膚炎 (3/4)、顕著な体重増加抑制 (4/4)、脾臓及び肝臓の重量減少 (2/4)、副腎の重量増加 (1/4) を生じ、受胎率の低下 (2/4) が認められた。ただし、摂餌量には有意差はなかった。児動物では、20%群で体重の減少 (2/4)、一部の骨格原基の化骨遅延 (2/4) が認められた。20%群では、母動物に毒性を示しているので、胎児に認められた所見が、胎児組織に達したLASまたはその代謝産物による効果か、または母動物の一定の病的変化を介した二次的効果かを分離しがたいと、著者らは考察している (西村ら, 1978)。以上の結果から、本評価書では、母動物毒性のNOAELは一次性接触皮膚炎、脾臓重量の減少、副腎の重量増加を生じない1% (21 mg/kg/日相当)、生殖・発生毒性NOAELは受胎率の低下、児動物の体重減少及び化骨遅延を生じない5% (107 mg/kg/日相当) であると判断する。
10週齢で妊娠した雌のICRマウスに妊娠1日目に単回、1日目から3日間連続してLAS (鎖長不明) を強制経口投与した報告がある。0.2% 0.2 mL、2% 0.1 mL、2% 0.5 mLのLAS溶液を投与した。それぞれ、14、70、350 mg/kg/日に相当する投与量である。妊娠18日目に帝王切開し、検査を行なった。その結果、350 mg/kg/日投与においても、母動物の体重、肝臓、腎臓、脾臓、胎盤の絶対重量、着床率に対照群と有意差はなかった。児マウスの胎児生存率、胎児吸収率、異常児出現率、体重に対照群と差が認められなかった (Koizumi et al., 1985)。
雌雄ラットを用いて3世代生殖毒性試験が行なわれている。系統の記載がなく、ラットの系統が不明であるが、F0世代の離乳した雌雄のラットに0、0.5%LAS (鎖長10~14) の混餌を84日間与えた後に交配し、妊娠、出産させた。その後も雌雄ラットにLASを摂取させ、F1、 F2世代は80~85日齢で交配し、F3世代の離乳期まで試験を続けた。生後5、21日で一般的検査及び血液学的検査を行なった。その結果、妊娠率、妊娠期間、出産時期、新生児の生存率、授乳期間、離乳後の成長など、0.5%LASを摂取した雌雄ラットの生殖能力には対照群との有意差は認められなかった。F2の雄の膵臓に腺房細胞の萎縮がみられたが、対照群にもみられた変化であった。一方、雌に赤血球数の減少がみられたが、正常値の範囲内の減少であった。F3の雌雄に血液学的検査に有意差が認められたが、差は小さく、一定の傾向はなかったことから、幼若期の個体差によるのだろうと、著者らは考察している (Buehler et al., 1971)。したがって、本評価書では、生殖・発生毒性NOAELは0.5%であると判断する。なお、1日及び体重当たりのLASの摂取量が換算されていないが、成長期のLAS摂取量は、0.02%で20 mg/kg/日に相当するという著者の計算結果を0.5%に換算すると、500 mg/kg/日に相当する結果が得られた (本評価書推算)。

以上の結果から、平均鎖長11.7のLASは、5% (107 mg/kg/日相当) の経皮投与でラット母動物に5%塗布群で軽度の皮膚炎、脾臓重量の減少、副腎の重量増加を生じ、実験最高投与量の20% (427 mg/kg/日相当) で母動物に体重増加抑制と生殖に関する受胎率の低下を生ずるなど、母動物毒性及び生殖毒性を示す。しかし、児動物に対しては最高投与量で胎児体重の減少を生ずるが、催奇形性を示していない。したがって、経皮経路によるLASの母動物毒性のNOAELは一次性接触皮膚炎、脾臓重量の減少、副腎の重量増加を生じない1% (21 mg/kg/日相当)、生殖・発生毒性NOAELは受胎率の低下、児動物の体重減少及び化骨遅延を生じない5% (107 mg/kg/日相当) である (西村ら, 1978)。経口投与では、鎖長10~14をもつLASは、ラットに対して0.5% (500 mg/kg/日相当) で生殖・発生毒性を示していないので、経口経路による生殖・発生毒性NOAELは0.5% (500 mg/kg/日相当) である (Buehler et al., 1971)。

表 8-8 LAS生殖・発生毒性試験結果
動物種等LAS
(含有率、鎖長)
投与方法投与期間投与量結果文献
マウス
ICR

4匹/群
市販洗剤M
含有率、鎖長不明
皮下注射


1日1回
10mL/kg
投与
妊娠
11-13日
(1%)


妊娠
6-9日
(5%)



0、1%
(0、100
mg/kg/日相当)


0、5%
(0、500
mg/kg/日相当)

F0:
1%: (4個体)
胎盤、脾臓の肥大、舌尖の出血、背正中部の出血
5%: (2個体)
投与初日から黒糞、体重減少、肝臓萎縮、脾臓肥大、腸出血。9また17日目に死亡
F1:
1%: 生存児数44/4母マウス
平均体重の有意な減少、全身出血、四肢異常の多発、曲尾、浮腫
三上ら,
1976
マウス
ICR

20匹/群
含有率、鎖長不明経皮


1日1回
0.5 mL
投与
妊娠
2-13日



0、0.03、0.3、3.0%
(0、5、50、
500 mg/kg/日 相当)
F0:
0.03%: 局所反応、過敏症もない
0.3%:  皮膚刺激反応あり
3.0%:
体重の減少、妊娠6日にピーク。
紅斑と浮腫、妊娠6日にピーク。同時期に刺激性と過敏症が亢進、不妊娠率の増加 (14/20) と  
生存児数の顕著な減少


F1:
0.03%:
同腹児数、胎児死亡率、対照群と有意差なし。
0.3%:
同腹児数の若干減少、胎児死亡率の有意な増加、
3.0%:
胎児死亡率の顕著な増加、骨格奇形率は対照群と有意差なし。
(生存児数少なく、外表奇形不明)


結論: LAS催奇形性を示さない
Palmer et al.,
1975
マウス
ICR
雌35
または
53匹/群
20%
鎖長不明
経口
(強制)
妊娠
1日目
(単回)
または
1-3日間
(1日1回)


帝王切開
18日目

0、14、70、350
mg/kg/日
F0:
350 mg/kg/日: 影響なし
体重、肝、腎、脾臓、胎盤の重量、着床率に対照と有意差なし。


F1: (400匹胎児/群を調べて)
350 mg/kg/日: 影響なし
生存率、胎児吸収率、異常児出現率、体重に対照と差がない。
Koizumi
et al.,
1985
ラット
系統
不明
雌雄
20匹/群
離乳児
98.1%
C10-C14
経口
(混餌)
3世代生殖毒性試験


F0離乳時からF3離乳時まで投与


交配時
期:
F0:
107-112日齢


F1, F2:
80-85
日齢
0、0.5%
(0、500 mg/kg/日相当: 本評価書推算)
F0-F:
0.5%: 妊娠率、妊娠期間、出産時期に対照と有意差なし


F1-F3:
0.5%: 新生児の生存率、授乳期間・離乳期の成長に対照と有意差なし


NOAEL (生殖・発生毒性):
0.5% (500 mg/kg/日相当)
(本評価書の判断):
Buehler
et al.,
1971
ラット
Wistar

10匹/群
含有率、鎖長不明皮下注射


1日1回10mL/kg投与
妊娠8、10、12、
14日目


帝王切開
20日目

LAS 0、
0.2%
(0、20
mg/kg/日相当)



F0:
0.2%: 体重の低下傾向、摂餌量、摂水量は増加、副腎重量の増加、胸腺の肥大、肝臓、腎臓、脾臓の重量の低下傾向
F1:
0.2%: 妊娠マウス1匹あたりの胎
児数 / 母動物数
0匹 (胎児なし) / 2匹
12匹 (全死亡) / 1匹
11.4匹平均 (生存)/ 7匹


生児の体重減少
全身出血の傾向、背正中部の高度の出血、四肢異常 (内反手、内反足、外反足) の多発 (27/80)、胸椎部の棘突起の先端部、半側欠損 (8/20)、 曲尾の多発。
三上ら,
1976
ラット
SD

20匹/群
含有率、鎖長不明経皮


1日1回
0.5 mL
投与
妊娠
2-15日



0、0.03、0.3、3.0%
(0、0.6、6、
60 mg/kg/日
相当)



F0:
0.03%:
局所反応、過敏症なし。
0.3%:
皮膚刺激反応
3.0%:
体重影響なし
紅斑と浮腫、妊娠4-5日にピーク。その後回復。


F1:
0.03%以上:
同腹児数、胎児死亡率、対照群と有意差ない。形態異常、口蓋裂が見られるが、有意差なし。骨格奇形率、肋骨異常率ともに有意差なし。
3.0%:
生存胎児の体重の有意な増加。


結論: LAS催奇形性を示さない
Palmer
et al.,
1975
ラット
Wistar
雌雄
12-18週齢
で交配
妊娠雌
20/
20.5 wt%
C11.7
経皮


背部塗布


11
0.5mL
翌日塗布する前に温水で拭き取り
妊娠
0-20


帝王切開
21日目



0、1、5、20%
(0、21、107、
427 mg/kg/日相当: 本評価書換算1))
F0:
1%:
A,B,C,D 2), 影響なし
5%:
A,B,C, 塗布部の皮膚の発赤・肥厚
C, 脾臓重量の減少
D, 副腎の重量増加
20%:
A,B,C,D, 体重増加抑制、但し、摂餌量に有意差なし、塗布部の皮膚の発赤・肥厚、痂皮形成、脱毛(D, 皮膚症状の記載なし)。黄体数、着床数、雌雄比に有意差なし。
A, 受胎率及び生存胎仔数の低下、
B, 受胎率及び生存胎仔数に差なし、
C, 受胎率の低下、生存胎仔数に差なし、脾臓及び肝臓重量の減少
D, 受胎率及び生存胎仔数に差なし、生児母体数の減少、子宮、胸腺、脾臓、肝臓の重量減少、副腎の重量増加


NOAEL (母動物毒性):
1% (21 mg/kg/日相当)
(本評価書の判断)
西村ら,
1978
F1:
5%以下:
A,B,C,D 2), 影響なし
20%:
A,B,C,D, 奇形児なし、頸肋、腰肋の発生率などの骨格異常、化骨進行度、皮下出血、精巣下降不全に差なし、椎骨突起の欠損なし
A,B, 体重の減少、
C,  体重の差なし、
D, 足根骨及び腰椎骨平均化骨数の減少、棘突起異常の増加


結論: LAS催奇形性を示さない


NOAEL (生殖・発生毒性):
5% (107 mg/kg/日相当)
(本評価書の判断)
ラット
Wistar
妊娠雌
18-20週齢
20匹/群
20.5%,
C11.7

経皮


1日1回
妊娠0-20日


21日目に
胎児観
察。

0、0.05、0.1、0.5%
(0、1、2、10 mg/kg/日)
塗布のまま


1、5、20%
(20、100、
400 mg/kg/日相当)
塗布後、30分で微温湯で洗う。



F0:
0.05%以上:
すべての群で、妊娠率は95%以上。母動物の死亡率0%。摂餌量に差なし


1.0%:毛色のわずかな退色。
5.0%:3-6日目にわずかな紅斑と皮膚の乾燥、6日目以降回復。
黄体、着床率、生存胎児数、吸収胚数に対照群と有意差はない。
20%:
体重の有意な減少。
紅斑、妊娠2-3日にピーク。6日以降回復。4-20日間わずかなひび割れ。


F1:
0.05%以上:
胎児生存率、体長、性比、胸椎、腰椎骨、指節骨数、尿管、膀胱の拡張、異所性精巣などの内部器官異常とすべて、対照群と有意差なし。


結論: LAS催奇形性を示さない
Daly
et al.,
1980

ウサギ
NZW

13匹/群
含有率、鎖長不明経皮


1日1回
10 mL
投与
妊娠
1-16日
0、0.03、0.3、3.0%
(0、0.9、9、
90 mg/kg/日
相当)
F0:
0.3%:
体重増加の抑制
3.0%:
体重の顕著な減少
紅斑と浮腫、妊娠6-7日にピーク。その後回復。
F1:
0.03%以上:
同腹児数、胎児死亡率、形態異常、内部器官異常、骨格奇形率とも対照群と有意差ない。
3.0%:
胎児死亡率の有意差のない増加傾向。


結論: LAS催奇形性を示さない
Palmer
et al.,
1975

1) 妊娠ラットの体重測定のデータ図から数値を読み取り、妊娠7日目の平均体重の算定値234 gを用いて、投与量を換算した。 2) A,B,C,D: 4研究グループの略号 太字はリスク評価に用いたデータを示す。

8.3.6 遺伝毒性

LAS遺伝毒性試験結果を表 8-9 に示す。
DNA損傷性について枯草菌を用いた感受性試験 (rec-assay)、突然変異誘起性についてサルモネラ菌と大腸菌を用いた復帰突然変異試験 (reversion test) が行なわれた。併せてラット肝ミクロソームによる代謝活性化の効果が調べられた。感受性試験で、枯草菌の生育阻害をRec+とRec-株で比較したところ、LASのナトリウム塩とカルシウム塩ともに、各々、最大用量800 μg/plate、2,000μg/plateにおいても阻害差は認められなかった。復帰突然変異試験で、ネズミチフス菌TA98his-、TA100his-と大腸菌WP2try-の復帰突然変異は、LASのナトリウム塩とカルシウム塩ともに、それぞれ、ネズミチフス菌では最大用量200、1,000μg/plate.においても、また、大腸菌では最大用量2,000、1,000μg/plateにおいても認められなかった。これらの結果は、LASはDNA損傷性も突然変異誘起性もないことを示している (井上ら, 1979)。
LASと市販洗剤の遺伝毒性について、哺乳動物を用いたin vivo染色体試験が行なわれた。10週齢の雄のICRマウスに、LAS 200~800 mg/kg、2種の市販洗剤K及び洗剤M 800~4,000 mg/kgを単回或いは5日間強制経口投与した。殺処分2時間前にコルヒチンを腹腔内注射し、単回投与後、6、24、48時間後に、或いは5日連続投与後6時間で骨髄細胞をとりだし、1匹当り50個の細胞、計150個の細胞の染色体を観察した。その結果、単回投与群 (LAS、市販合成洗剤2種) 及び5日間連続投与群 (LAS) において、切断、交換型の染色体異常、ギャップの出現は少なく、陰性対照との間に有意差はなかった。LASと市販洗剤の染色体異常誘発性は陰性であることが示された (井上ら, 1977)。
Wistarラットのin vivo染色体試験のために、雌雄の離乳児に0、0.56、1.13%LASを含む混餌を90日間投与した。各群計360個の骨髄細胞について染色体の交換、切断、キャップ数を調べたところ、LAS投与群の染色体異常数は、陰性対照の異常数を越えておらず、染色体異常は陰性との結果を得た (Hope,1977)。
妊娠中の母動物と胎児へのLASに関する小核試験が行なわれた。妊娠ICRマウスに対して、妊娠3日目に0、2 mg/匹 (0、70 mg/kg/日相当)、17日目に0、1、2、10 mg/匹 (0、14、70、350 mg/kg/日相当) のLASを単回皮下投与した。妊娠18日目に母動物の骨髄細胞を調製し、雌雄の胎児について肝細胞と多核赤血球の小核を観察した。結果は、妊娠初期、妊娠後期のLAS投与でも、ともに小核出現率は対照群と有意差がなく、陰性であった。したがって、妊娠中に投与されたLASは母体と児動物に遺伝毒性を示さない (Koizumi et al., 1985)。


表 8-9 LAS遺伝毒性試験結果

試験系LAS
組成
試験材料処理条件用量 結果1)

文献
最低 最高
in vitro感受性試験
(rec assay)
LAS-Na 
95.5 %
鎖長不明


LAS-Ca
96.2 %
鎖長不明
枯草菌H17 (Rec +)
   M45 (Rec -)
S9無添加(μg/plate)
LAS-Na
2-800
LAS-Ca
 4-2,000

-S9 +S9井上ら,
1979





- ND


- ND
復帰突然変異LAS-Na 
95.5 %
鎖長不明




LAS-Ca
96.2 %
鎖長不明




ネズミチフス菌TA98
ネズミチフス菌TA100
大腸菌WP2 try -


ネズミチフス菌TA98
ネズミチフス菌TA100
大腸菌WP2 try -
S9処理:
37℃、20
分間
(μg/plate)
LAS-Na
10-200
10-200
5-2,000
LAS-Ca
10-1,000
10-1,000
10-1,000
  


- -
- -
- -


- -
- -
- -
in vivo



染色体異常LAS
C11.8


洗剤K
19.0%
鎖長不明


洗剤M
17.1%
鎖長不明

ICRマウス (雄)強制経口
投与後6、
24、48時
間目、
または
5日間投与
後6時間目に骨髄
細胞標本
を作製
単回投与:
(mg/kg)
LAS
200-800
洗剤K
800-3,200
洗剤M
1,000-4,000


5日間投与:
LAS
200-800



















井上ら,
1977
染色体異常44%
C12
(C10-C14)
Wistarラット、雌雄、
離乳児、
90日間混餌投与後骨髄細胞
の塗抹標
本を作製
0、0.56、1.13%

Hope,
1977
小核20%
鎖長不明

ICRマウス
 F0雌:骨髄細胞
 F1雌雄:
肝細胞と多核赤血球
皮下単回
A: 妊娠3
日目投与
18日目に標本調製


B:妊娠17
日目投与
24時間後
に調製


0、2 mg/匹








0、1、2、10
mg/匹


F0: -
F1: -






F0: -
F1: -



Koizumi
et al.,
1985

1) 陰性; ND, データなし.

8.3.7 発がん性

LAS発がん性試験結果を表 8-10 に示す。
雌雄のラット (系統不明) に、離乳直後から0、0.02、0.1、0.5%LASの混餌を2年間与えたところ、各群の皮下組織に線維腺腫が認められた。しかし、投与量に依存性がなく、LASによる発がんではないと判定されている (Buehler et al., 1971)。
Wistarラットに、週3回で2年間LASを経皮投与し、腫瘍の有無が調べられた。毎回、1匹当たり0、1、5、25 mgのLASが塗布され、70週以降、対照群を含めた各群25匹の雌雄の頸部、肩部、背部、腰部、腹部、鼠蹊部に腫瘤形成が1~5例みられた。また、24か月後の雄の病理組織学検査で、対照群を含む各群の精巣に原発性間細胞腫が5~7例認められた (谷口ら, 1978)。以上のように、LASが投与されたラットに腫瘍の発生が観察されているが、対照群と差がなく、LASに特異的な発がんとはいえない。
以上の結果は、LAS発がん性をもたないことを示しているが、発がん物質と同時に投与し、発がん作用に対するLASの修飾作用が調べられている。発がん物質として、強力な変異剤であり、かつ発がん物質として知られているN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン (MNNG) が用いられた。0%または0.1%LASを含む100 mg/LのMNNGを雄のWistarラット、各々13、10匹に63週間飲水投与した。腺胃の腺がん発生率は、0%LAS群で8例 (62%)、0.1%LAS群で4例 (40%) であり、腺がんの発生率と出現時期には、対照群と比べて有意差はなかった。組織学的検査で、対照群には分化した状態を保った腺腫しか認められなかったが、LAS群に未分化な腺腫が2例みられた。転移を調べたところ、対照群ではリンパ管への浸潤はなかったが、LAS群には1例認められた。この結果から、LASが発がん物質の粘膜層の透過と胃粘膜との直接的な接触を生じさせるとともに、標的細胞への浸透を促進しているかもしれないと考察されている (Takahashi et al., 1973)。

なお、2002年現在、国際機関等 (IARCACGIH、米国EPA、米国NTP) 及び日本産業衛生学会はLAS発がん性を評価していない (ACGIH, 2001; IARC, 2002; U.S. EPA, 2002; U.S. NTP, 2002; 日本産業衛生学会, 2002)。

表 8-10 LAS発がん性試験結果
動物種等LAS
組成
投与方法投与期間投与量結    果文献
ラット
系統不明
雌雄
離乳直後
(週齢不明)
12-13匹/群
98.1%
C10-C14
経口
(混餌)
2年間0、0.02、0.1、0.5%

0%以上各群: 
雌雄: 皮下組織に線維腺腫の発生 (投与量依存性なし)


NOAEL : 0.5% (雌雄)

Buehler
et al.,
1971
ラット
Wistar
雌雄
7週齢
25匹/群
19.7%
鎖長不明
皮膚
適用


3回/週
翌日微
温湯で
拭き取
24か月0、0.005、0.025、0.125 mL
(0、1、5、25 mg/匹相当)
0 mL以上各群:
雌雄: 16か月以降に、頸部、肩部、背部、腰部、腹部、鼠蹊部に散発的な腫瘤形成
雄: 24か月後の病理組織学検査で精巣に原発性間細胞腫の発生
NOAEL:
25 mg/匹 (57 mg/kg相当) (雄)
谷口ら,
1978



8.3.8 その他の影響

実験動物の内分泌系及び生殖系に対するLASの影響に関する報告は現在までのところ見出されていないが、酵母のレポータージーンアッセイ系を用いたヒトエストロゲン受容体を介する転写活性化能に関するin vitro実験報告がある。レポーター遺伝子lac-Z (β-ガラクトシダーゼ遺伝子) をレポーター遺伝子として、市販品のLAS 2種とLASの生体内代謝産物のスルホフェニルカルボン酸塩 (SPC) 4種の転写活性化能が調べられた。陽性対照の17β-エストラジオールは5×10-6 g/Lで転写活性が最大となったが、LASは、5×10-5~5×10-2 g/Lで活性を示さなかった。1.5×10-2 g/L以上で酵母の溶解を生じていた。また代謝産物の4種とも、5×10-5~1×10-1 g/Lで活性を示さなかったし、溶解もしなかった。このアッセイ系では、LASとSPCはエストロゲン活性をもたないことが示された (Routledge and Sumpter, 1996)。

8.4 ヒト健康への影響 (まとめ)

LASのヒトにおける生体内動態の報告はないが、ラット、アカゲザルにLAS経口投与されると、消化管で速やかに吸収され、血中濃度は摂取後2-4時間で最大となり、48時間後には殆どゼロとなる。また、LASは、腸肝循環経路を経て肝臓に運ばれて、代謝される。LASのアルキル鎖が短くなり、より極性の強い、親水性の化合物に変わる。その後、胆汁とともに腸に分泌され、糞として排泄される。一方、腎臓に運ばれたLAS代謝物は、膀胱に送られ、尿として排泄される。摂取されたLASの99%近くが、2日後に尿と糞として体外に排出される。一方、ラットの皮膚に接触したLASは、皮膚表面には付着し、24時間経ってもほとんど皮膚表面に留まっている。皮膚を通しても吸収されるが、その吸収率は小さい。皮膚から吸収されたLASは血管に運ばれ、その後は経口摂取と同じ運命を辿る。
LASのヒトへの暴露として日常的に起こることには、洗剤液を素手で扱う場合の皮膚暴露、洗濯した衣類の接触による皮膚及び経皮暴露、飲料水、食材、食器を通して体内に摂取される経口暴露がある。LASには揮発性がないので、吸入暴露の可能性はない (6. 参照)。洗剤液の皮膚接触による健康影響について、ヒトの腕の皮膚適用で落屑と皮膚上層の乾燥を生じ、皮膚刺激性を示す。また、C10~C13のアルキル鎖を含む市販製品のLAS 1%水溶液は手の指間に手荒れを生ずる。しかし、洗剤液中のLAS濃度が使用適正濃度とされる0.04%であれば、ヒトの皮膚に影響はない。LASと市販洗剤は、濃度が0.113%、LAS濃度にして0.09%まで、ヒトに対して皮膚感作性を示さない。その他、LASの長期間経口暴露によるヒトの健康及び生殖などへの影響について定量的に調べた研究報告はない。
以下、実験動物を用いたLASの毒性試験の結果をまとめると、LASの急性毒性に関して、経口投与LD50は、マウスにおいて1,665~3,400 mg/kgであり、ラットでは404~1,900 mg/kg である。しかし、経皮適用のLD50の報告はない。
刺激性及び腐食性に関して、LASは、ラットの累積皮膚適用で皮膚刺激性及び腐食性、また、ウサギに対して一過性の強い眼刺激性を有する。感作性に関して、モルモットに対して感作性を示す。
反復投与毒性に関して、LASは、経口及び経皮経路における2年以上の反復投与でラットに対して実験最高投与量で有害な影響を生じていない。その結果、各経路のNOAELの上限は求められていないが、本評価書では、最高投与量をNOAELと判断する。各経路におけるNOAELは、混餌の経口投与で300 mg/kg/日、飲水投与では200 mg/kg/日であり、経皮投与の場合、57 mg/kg/日である。そこで、混餌投与のNOAELである300 mg/kg/日の値は、現時点での無毒性量の上限であると考えるとともに、食事を介したLASの摂取がヒト暴露の主な経路であることを考慮して、300 mg/kg/日を経口投与によるLASNOAELとする。
生殖・発生毒性に関して、LASは、経皮投与では、107 mg/kg/日でラットの母動物に一次性接触皮膚炎、脾臓重量の減少、副腎の重量増加、最高投与量の427 mg/kg/日で体重増加抑制と生殖に関して受胎率の低下を生ずるなど、母動物毒性及び生殖毒性を示す。しかし、児動物に対しては最高投与量で胎児体重の減少及び化骨遅延を生ずるが、催奇形性を示していない。したがって、経皮経路によるLASの母動物毒性のNOAELはラットの一次性接触皮膚炎、脾臓重量の減少、副腎の重量増加を生じない21 mg/kg/日、生殖・発生毒性NOAELは受胎率の低下、児動物の体重減少及び化骨遅延を生じない107 mg/kg/日である。経口投与では、500 mg/kg/日でラットに生殖・発生毒性を示していないので、経口経路による生殖・発生毒性NOAELは500 mg/kg/日である。
遺伝毒性については、LASは、in vitroでの遺伝子突然変異で陰性の結果が得られている。また、in vivoでのLASと市販洗剤の哺乳動物を用いた染色体異常、妊娠中の母動物に対する小核の試験でも陰性の結果が得られている。したがって、LAS遺伝毒性を示さないと判断する。
発がん性については、雌雄のラットに、離乳直後から0、0.02、0.1、0.5%LASの混餌を2年間投与した試験で、投与量に依存した発がんはみられていない。ラットに、週3回で2年間LASを経皮投与した試験で25 mg/匹までLASに特異的な発がんはみられていない。なお、IARCを始めとして国際機関等ではLAS発がん性を評価していない。



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