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5 環境中運命

5.1 大気中での安定性

直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 (アルキル基の炭素数が10から14までのもの及びその混合物に限る。) (LAS) の蒸気圧は具体的なデータはないものの、極めて低いと考えられる。一方、水への溶解度は200 g/L (25℃) である (3章参照)。ミストなどで大気中に排出されると、大部分は大気中に浮遊する微粒子への吸着や雨滴への溶解などにより沈降されると考えられ、残ったものがOHラジカルなどと反応すると推定される。
ここでは、代表的なLASであるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム (C12LAS-Na) について記述する。
a. OHラジカルとの反応性
対流圏大気中では、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとOHラジカルとの反応速度定数は1.6×10-11 cm3/分子/秒 (25℃、推定値) である (SRC:AopWin, 2001)。OHラジカル濃度を5×105~1×106 分子/cm3とした時の半減期は0.5~1日と計算される。

b. オゾンとの反応性
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとオゾンとの反応性については、調査した範囲内では報告されていない。

c. 硝酸ラジカルとの反応性
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと硝酸ラジカルとの反応性については、調査した範囲内では報告されていない。

5.2 水中での安定性

5.2.1 非生物的分解性

水面ではLASは紫外線によって光分解されるが、環境中での分解は生分解が主である (Matsuura and Smith, 1970)。なお、LASには加水分解を受けやすい化学結合はないので、水環境中では加水分解されない。

5.2.2 生分解性

LASについては、代表的な化合物であるp-n-オクチルベンゼンスルホン酸の化学物質審査規制法に基づく好気的生分解性試験が実施されている。被験物質濃度100 mg/L、活性汚泥濃度30 mg/L、試験期間 4週間の条件において、生物化学的酸素消費量 (BOD) 測定での分解率は47%、全有機炭素 (TOC) 測定での分解率は44%、高速液体クロマトグラフ (HPLC) 測定での分解率は11%であることなどから良分解性と判定されている (通商産業省, 1996)。LAS生分解性については多くの研究がなされており、分解経路が明らかにされている。LASは、環境中に生育する微生物によって分解される。LASが細胞内に取り込まれた後、まず、酸素が存在する好気的条件下でアルキル基末端の酸化 (ω酸化) によってメチル基がカルボキシル化され、分解が始まる。次いで、アルキル基の酸化的短縮 (β酸化) が続き、さらにベンゼン環部分の開裂を経て、究極的に二酸化炭素と水及び硫酸イオンに分解される。分解される過程で有機物の一部は、低級の脂肪酸などに変換されて微生物に同化される (Swisher, 1987)。この微生物によって被分解物が同化される現象を資化という。
酸素が存在しない嫌気条件下ではアルキル基末端が酸化されないため、LASは分解され難い。しかし、すでに ω酸化された成分が嫌気条件に移行した場合には引き続き分解される (Larson et al., 1993)。いずれの同族体、異性体も生分解されるが、長鎖長成分あるいはフェニル基の結合位置がアルキル基の末端に近い成分の分解が速い傾向がみられる (Swisher, 1987)。

5.2.3 下水処理による除去

一般家庭又は工場などから排出されたLAS下水処理場に運ばれ、活性汚泥法による下水処理により97~99.9%の高率で除去される (McAvoy et al., 1993; Prats et al., 1997; Schroder et al., 1999)。除去は活性汚泥中のバクテリア (細菌) による分解と汚泥への吸着による。分解と吸着の比率は処理条件によって異なるが、分解が主である。活性汚泥法での下水処理において物質収支を検討した研究では、下水処理場に流入したLASは処理後、放流水中に0.6%、搬出汚泥中に9%残留していた (Prats et al., 1997)。活性汚泥処理による生分解の半減期は一次分解 (分子の一部分が分解して界面活性を消失する程度の分解) と究極分解 (菌体の成分として資化されるか、又は二酸化炭素、水などの無機物までの分解) の半減期が、それぞれ、38~43分間及び78~83分間であった (Federle and Itrich, 1997)。

5.3 環境水中での動態

環境水中に直接流入したLASは水中のバクテリアによって分解され、分解速度は夏季に速く冬季に遅い (天野ら, 1990)。この最大の要因は冬季の水温の低下に伴うバクテリアの分解活性の低下によるものと解される (若林ら, 1989)。水中でのLASの生分解速度は微生物の活性を左右する水温や溶存酸素濃度等のほかに、微生物の種類 (フローラ) と数や濃度の影響を受ける (関口ら, 1975)。環境水中での半減期は温度や濃度等の条件によって異なるが、数時間から数日と考えられている (Swisher, R.D., 1987)。実際の河川での検討結果として半減期は1時間 (一次分解) (Takada et al., 1994) から1日程度 (究極分解) (Larson et al., 1993) との報告がある。また、室内試験において河川水にLASを10 mg/L添加し、低温 (10℃) で試験を行ったところ半減期は9日以上であった (菊地, 1985)。それらの要因を反映した結果として、LASの河川水中濃度は、微生物の分解活性が高い夏季には低水温期に比較して低下し、また調査地点ごとに季節変動幅が異なる (日本石鹸洗剤工業会, 2001a)。
環境水中のLASの一部は懸濁物質に吸着されて、底質に移行する。LASの吸着性は固形物質の有機性成分含量等によって異なる。吸着係数として下水処理場の一次処理沈殿汚泥に対して590~1,400 L/kg、活性汚泥に対して660~5,200 L/kg、河川底質に対して40~360 L/kgが求められ、活性汚泥に吸着されやすいことが示されている (Painter and Zable, 1989)。実際の河川でのモニタリング調査において、河川水中のLASの10~45%が懸濁物質に吸着している例が報告されている (日本石鹸洗剤工業会, 1997)。底質中に移行したLASも生分解される (天野ら, 1990; 菊地ら, 1992; 矢可部ら, 1991)。素掘りの穴に家庭排水を投入し続けた場合にも、LASは土壌中で分解されて、地下水中にまで到達しなかったことが報告されている (菊地ら, 1992)。

5.4 生物濃縮性

LASについては化学物質審査規制法に基づく濃縮度試験が実施されていない。魚類の生物濃縮係数 (BCF) はアルキル鎖が長くなるにつれて増加するが、市販LASの主成分であるC12LASではBCFとして16~551の値が報告されている (Comotto et al., 1979; IPCS, 1996)。魚体内からのLASの排出半減期は1~6日である (日本水質汚濁研究協会, 1986)。
なお、魚体内では胆のうで最も高い濃縮性がみられる (Kimerle et al, 1981)。これは胆のうを経由して排泄される体内動態に起因していると考えられる。



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