GHS分類結果 (過年度実施分類結果の再分類)

名称:パラ-ジクロロベンゼン
CAS番号:106-46-7

結果:
物質ID: 21B3160
分類実施者: 厚生労働省・環境省
分類実施年度: 平成21年度
使用マニュアル: 政府向けGHS分類ガイダンス(H21.3版)

物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
1 爆発物 分類対象外 - - - - 爆発性に関する原子団を含まない。
2 可燃性/引火性ガス(化学的に不安定なガスを含む) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
3 エアゾール 分類対象外 - - - - エアゾール製品でない。
4 支燃性/酸化性ガス 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
5 高圧ガス 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
6 引火性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
7 可燃性固体 分類できない - - - - ICSC(2003)では可燃性としているが、データがなく分類できない。
8 自己反応性化学品 分類対象外 - - - - 爆発性、あるいは自己反応性に関する原子団を含まない。
9 自然発火性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
10 自然発火性固体 区分外 - - - - 発火点が>500℃(Ullmanns(E)(6th, 2003))で70℃を超えている。
11 自己発熱性化学品 分類できない - - - - 融点が140℃以下の固体に適した試験方法が確立していない。
12 水反応可燃性化学品 分類対象外 - - - - 金属または半金属(B, Si, P, Ge, As, Se, Sn, Sb, Te, Bi, Po, At)を含まない。
13 酸化性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
14 酸化性固体 分類対象外 - - - - 塩素を含む有機化合物であるが、この塩素が炭素以外の元素と化学結合していない。
15 有機過酸化物 分類対象外 - - - - -O-O-構造を含まない有機化合物である。
16 金属腐食性物質 分類できない - - - - データなし。

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
1 急性毒性(経口) 区分外 - - - - ラットのLD50値は500, 1000, 2515, >2000 mg/kg(いずれもDFGOT vol.4(1992))、1625 mg/kg(ACGIH(2001))、2512, 3790, 3863 mg/kg(いずれもNICNAS(2000))であり、区分4に該当するデータは3つ、JIS分類基準の区分外(国連分類基準の区分5)に該当するデータは4つ、JIS分類基準の区分外(国連分類基準の区分5)または区分外に該当するデータは1つである。よって、もっとも該当するデータの多いJIS分類基準の区分外(国連分類基準の区分5)とした。
1 急性毒性(経皮) 区分外 - - - - ラットのLD50値>2000 mg/kg(EU-RAR No.48(2004))、>6000 mg/kg(NICNAS(2000))に基づき区分外とした。
1 急性毒性(吸入:ガス) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
1 急性毒性(吸入:蒸気) 分類できない - - - - データなし。
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 区分外 - - - - ラットのLC50値(4時間)5.70 mg/L(CERI・NITE有害性評価書(2006))、≧6.00 mg/L(EPA Guideline 870.1300、EPAREDcaseNo.3058(access on Jul. 2009))に基づき、区分外とした。なお、飽和蒸気圧濃度(3.17 mg/L)よりも高く、粉塵と判断し分類した。
2 皮膚腐食性/刺激性 区分外 - - - - ヒトでは、「固体状の本物質を皮膚に接触させると極わずかな刺激性(negligible irritating)を生じる」(NICNAS(2000))、「本物質(液体、蒸気)を長期間または繰り返し皮膚へ接触させると灼熱感を伴う軽度の刺激性(slight irritation)の原因となる」(EU-RAR No.48(2004))との記載があり、ウサギを用いた皮膚刺激性4時間適用試験では「軽度の刺激性を有する」(OECD TG404、CERI・NITE有害性評価書(2006))との記載がある。よって、JIS分類基準の区分外(国連分類基準の区分3)とした。
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分2 警告 H319: 強い眼刺激 P305+P351+P338: 眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。
P337+P313: 眼の刺激が続く場合:医師の診断/手当てを受けること。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
ヒトでは、本物質の蒸気による職業暴露において重度の眼刺激性(severe irritation)が報告されており(NICNAS(2002)、ACGIH(7th, 2001))、ウサギを用いた眼刺激性試験では「結膜の発赤及び浮腫がみられ(1/3例)、72時間後には回復、虹彩及び角膜に影響なし、軽度の眼刺激性が報告された」(OECD TG405、CERI・NITE有害性評価書(2006))との記述がある。以上より、重度の眼刺激性を有すると考えられ、区分2とした。
4 呼吸器感作性 分類できない - - - - データなし。
4 皮膚感作性 区分1 警告 H317: アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ P302+P352: 皮膚に付着した場合:多量の水と石鹸で洗うこと。
P333+P313: 皮膚刺激又は発疹が生じた場合:医師の診断/手当てを受けること。
P261: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーの吸入を避けること。
P272: 汚染された作業衣は作業場から出さないこと。
P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P363: 汚染された衣類を再使用する場合には洗濯をすること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ヒトでは、69歳の男性が本物質で処理した肘掛け椅子に皮膚接触し、アレルギー性紫斑病を発症した例が報告されている(NICNAS(2000))。また、モルモットを用いたMaximization testの結果について「評点1;9/24匹、評点2;4/24匹、評点3;1/24匹がみられ、感作性を有する」(CERI・NITE有害性評価書(2006))との記載があり、皮膚感作性を有すると考えられ、区分1とした。
5 生殖細胞変異原性 区分外 - - - - in vivoにおいて優性致死試験で陰性であり、小核試験では6試験中2試験で陽性であるが(いずれもEU-RAR No.48(2004))、そのうちの1つはNITE初期リスク評価書No.76(2005)において「再現性なし」との記述がある。加えて染色体異常試験は全て陰性であり(EU-RAR No.48(2004)、NTP DB(access on 7. 2009))、本物質について「遺伝毒性を有する可能性は低いと判断する。」(NITE初期リスク評価書No.76(2005))との記載もあるため、区分外とした。なお、in vivoの複製DNA合成試験(NITE初期リスク評価書No.76(2005)、ATSDR(2006))は全て陽性であり、これについて「発がんプロモーター活性を有する可能性が示唆された」(NITE初期リスク評価書No.76(2005))との記述がある。in vitroでは小核試験で陽性(3試験中2試験)があるが、染色体異常試験、遺伝子突然変異試験、細菌を用いた復帰突然変異試験では全て陰性である(いずれもEU-RAR No.48(2004))。
6 発がん性 区分2 警告 H351: 発がんのおそれの疑い P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。
P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。
P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
P281: 指定された個人用保護具を使用すること。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
IARC(1999)で2B、EU(2004)で3、ACGIH(1990;ACGIH-TLV(2009))でA3、NTP(2000)でR、日本産業衛生学会(2008)で2Bに分類されていることから、区分2とした。ラットおよびマウスを用いた104週間吸入暴露試験(厚生労働省がん原性試験(1995))においてはラットでは雌雄ともに腫瘍の発生増加は認められず、パラ-ジクロロベンゼンF344/DuCrj(Fischer)ラットの雌雄に対するがん原性は認められなかった。マウスでは雄に肝細胞癌と肝臓の組織球性肉腫、雌に肝細胞癌、肝細胞腺腫および肺の細気管支-肺胞上皮癌の発生増加が認められ、パラ-ジクロロベンゼンのCrj: BDF1マウスの雌雄に対するがん原性が示された。厚生労働省では健康障害を防止するための指針を出している(厚労省指針(2005))。
7 生殖毒性 区分1B 危険 H360: 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。
P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。
P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
P281: 指定された個人用保護具を使用すること。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
経口投与2世代生殖毒性試験(OECD TG416)において、F1世代の親動物に毒性を示さない用量で、出生後1-4日目の生存仔数減少がみられた(EU-RAR No.48(2004))ことから、区分1Bとした。
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1(血液、肝臓)、区分3(気道刺激性) 危険
警告
H370: 臓器の障害(血液、肝臓)
H335: 呼吸器への刺激のおそれ(気道刺激性)
P304+P340: 吸入した場合:空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させること。
P307+P311: 暴露した場合:医師に連絡すること。
P403+P233: 換気の良い場所で保管すること。容器を密閉しておくこと。
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P261: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーの吸入を避けること。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P271: 屋外又は換気の良い場所でのみ使用すること。
P312: 気分が悪いときは医師に連絡すること。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ヒトについては、本物質を経口摂取した幼児に「黄疸、溶血性貧血、メトヘモグロビン尿」(CERI・NITE有害性評価書(2006))がみられている。また、暴露経路は不明であるが女性に「鼻炎」(NITE初期リスク評価書No.76(2005))がみられ、「本物質の粒子、蒸気はヒトの眼と鼻にひどい痛みをもたらす」(PATTY5th(2001))との記載がある。以上より、分類は区分1(血液、肝臓)、区分3(気道刺激性)とした。
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1(呼吸器、肝臓、神経系、血液)、区分2(腎臓) 危険
警告
H372: 長期にわたる、又は反復暴露による臓器の障害(呼吸器、肝臓、神経系、血液)
H373: 長期にわたる、又は反復暴露による臓器の障害のおそれ(腎臓)
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P314: 気分が悪いときは、医師の診断/手当てを受けること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ヒトでは、蒸気暴露により「肝臓の黄色萎縮、黄疸、運動失調、行動障害、記憶障害、言語障害などの神経症状、貧血」(CERI・NITE有害性評価書(2006))がみられ、経口摂取においては「重篤な低色素性小赤血球性貧血」(PATTY5th(2001))がみられている。動物試験では、区分1の範囲内でラットおよびモルモットを用いた16日間吸入暴露試験で肺に「間質性水腫、うっ血、肺胞の出血」(ATSDR(2006))がみられ、ラットを用いた4週間経口投与試験において用量150 mg/kg(90日換算値:46.7 mg/kg)で「管の拡張及び壊死を伴う尿細管腎症」、用量300 mg/kg(90日換算値:93.3 mg/kg)で「小葉中心性肝細胞肥大」(EU-RAR No.48(2004))がみられ、イヌを用いた1年間経口投与試験においても用量50 mg/kgで「胆管の過形成及び肝臓の門脈性炎症、腎臓の褪色及び集合管上皮の空胞化」(NITE初期リスク評価書No.76(2005))など肝臓および腎臓の障害がみられる。以上のことから、呼吸器、肝臓、神経系、血液、腎臓が標的臓器と考えられた。なお、実験動物に対する腎臓への影響は、区分2に相当するガイダンス値の範囲でみられた。 以上より、分類は区分1(呼吸器、肝臓、神経系、血液)、区分2(腎臓)とした。
10 吸引性呼吸器有害性 分類できない - - - - データなし。

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
11 水生環境有害性(急性) 区分1 警告 H400: 水生生物に非常に強い毒性 P273: 環境への放出を避けること。
P391: 漏出物を回収すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
甲殻類(オオミジンコ)での48時間EC50=0.7 mg/L(NITE初期リスク評価書, 2005, 他)であることから、区分1とした。
11 水生環境有害性(長期間) 区分1 警告 H410: 長期継続的影響によって水生生物に非常に強い毒性 P273: 環境への放出を避けること。
P391: 漏出物を回収すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
急性毒性区分1であり、急速分解性がない(難分解性、BODによる分解度:0%(既存点検, 2001))ことから、区分1とした。
12 オゾン層への有害性 分類できない - - - - 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。


分類結果の利用に関する注意事項:
 政府による分類結果は、GHSに基づくSDSやラベル作成の際に自由に引用および複写を行うことができます。ただし、引用および複写をした上で作成されたSDS・ラベルの内容に対する責任は、SDS・ラベル作成者にあることにご留意ください。
 本分類結果は、分類ガイダンス等のマニュアルで定められている情報源と判定方法に基づくものであり、あくまでもSDSやラベル作成の際の参考として公表しているものです。他の文献や試験結果等を根拠として、本内容と異なる分類結果でSDSやラベルを作成することを妨げるものではありません。

参考情報:
使用マニュアル

解説・用語集(エクセルファイル)

厚生労働省モデルラベル

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厚生労働省モデルSDS

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