名称:ビス(2‐クロロエチル)スルフィド (別名:マスタードガス)
CAS番号:505-60-2
物質ID: | 21B3048 |
分類実施者: | 厚生労働省・環境省 |
分類実施年度: | 平成21年度 |
使用マニュアル: | 政府向けGHS分類ガイダンス(H21.3版) |
危険有害性項目 | 分類結果 | シンボル | 注意喚起語 | 危険有害性情報 | 注意書き | 分類根拠・問題点 | |
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1 | 爆発物 | 分類対象外 | - | - | - | - | 分子内に爆発性に関連する原子団を含まない。 |
2 | 可燃性/引火性ガス(化学的に不安定なガスを含む) | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
3 | エアゾール | 分類対象外 | - | - | - | - | エアゾール製品でない。 |
4 | 支燃性/酸化性ガス | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
5 | 高圧ガス | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
6 | 引火性液体 | 区分外 | - | - | - | - | 引火点(105℃(Sax(8th、1992)))が>93℃である。 |
7 | 可燃性固体 | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
8 | 自己反応性化学品 | 分類対象外 | - | - | - | - | 分子内に爆発性および自己反応性に関連する原子団を含まない。 |
9 | 自然発火性液体 | 分類できない | - | - | - | - | データなし。 |
10 | 自然発火性固体 | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
11 | 自己発熱性化学品 | 分類できない | - | - | - | - | 液体状の物質に適した試験方法が確立していない。 |
12 | 水反応可燃性化学品 | 分類対象外 | - | - | - | - | 金属または半金属(B, Si, P, Ge, As, Se, Sn, Sb, Te, Bi, Po, At)を含まない。 |
13 | 酸化性液体 | 分類対象外 | - | - | - | - | 酸素及びフッ素を含まず、塩素を含む有機化合物であるが、この塩素は炭素、水素以外の元素と化学結合していない。 |
14 | 酸化性固体 | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
15 | 有機過酸化物 | 分類対象外 | - | - | - | - | -O-O-構造を有していない有機化合物である。 |
16 | 金属腐食性物質 | 分類できない | - | - | - | - | データなし。 |
危険有害性項目 | 分類結果 | シンボル | 注意喚起語 | 危険有害性情報 | 注意書き | 分類根拠・問題点 | |
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1 | 急性毒性(経口) | 区分2 | 危険 | H300: 飲み込むと生命に危険 |
P301+P310: 飲み込んだ場合:直ちに医師に連絡すること。 P264: 取扱後は...よく洗うこと。 P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。 P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。 P330: 口をすすぐこと。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
ラットLD50値:17 mg/kg(ATSDR, 2003)に基づき、区分2とした。 | |
1 | 急性毒性(経皮) | 区分1 | 危険 | H310: 皮膚に接触すると生命に危険 |
P302+P350: 皮膚に付着した場合:多量の水と石鹸で優しく洗うこと。 P262: 眼、皮膚、衣類につけないこと。 P264: 取扱後は...よく洗うこと。 P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。 P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。 P310: 直ちに医師に連絡すること。 P322: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。 P361: 汚染された衣類を直ちに全て脱ぐこと。 P363: 汚染された衣類を再使用する場合には洗濯をすること。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
ウサギLD50値:100 mg/kg(DFGOT vol.4, 1992)、ラットLD50値:18 mg/kg(DFGOT vol.4, 1992)および9 mg/kg(DFGOT vol.4, 1992)より、危険性の高い方のラットのデータに基づき区分1とした。 | |
1 | 急性毒性(吸入:ガス) | 分類対象外 | - | - | - | - | GHSの定義における液体である。 |
1 | 急性毒性(吸入:蒸気) | 区分1 | 危険 | H330: 吸入すると生命に危険 |
P304+P340: 吸入した場合:空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させること。 P403+P233: 換気の良い場所で保管すること。容器を密閉しておくこと。 P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。 P271: 屋外又は換気の良い場所でのみ使用すること。 P284: 呼吸用保護具を着用すること。 P310: 直ちに医師に連絡すること。 P320: 特別な処置が緊急に必要である(このラベルの...を見よ)。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
ラットLC50 = 100mg/m3/10min.(15ppm/10min.)、280mg/m3/10min.(43ppm/10min.)(HSDB(2008))のデータは、10min.暴露であるが、区分1の基準値(飽和蒸気圧濃度0.94 mg/Lよりガスの基準値100ppm)以下で致死性を示していることから区分1とした。 | |
1 | 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) | 分類できない | - | - | - | - | データなし。 |
2 | 皮膚腐食性/刺激性 | 区分1 | 危険 | H314: 重篤な皮膚の薬傷及び眼の損傷 |
P301+P330+P331: 飲み込んだ場合:口をすすぐこと。無理に吐かせないこと。 P303+P361+P353: 皮膚(又は髪)に付着した場合:直ちに汚染された衣類を全て脱ぐこと/取り除くこと。皮膚を流水/シャワーで洗うこと。 P305+P351+P338: 眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。 P304+P340: 吸入した場合:空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させること。 P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。 P264: 取扱後は...よく洗うこと。 P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。 P310: 直ちに医師に連絡すること。 P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。 P363: 汚染された衣類を再使用する場合には洗濯をすること。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
ヒトの皮膚へのばく露が紅斑と水疱形成、または熱傷と水疱形成を起こす(ATSDR(2003))こと、病理組織学的には化学熱傷と同一である(HSDB(2008))と述べられている。実際に第一次大戦中に志願して皮膚へのばく露を受けた兵士達に紅斑と熱傷が報告されている(ATSDR(2003))。ばく露後4〜6日で壊死が現れ、16〜20日までに壊死組織の脱落と上皮再生、治癒には3〜8週間かかると(HSDB(2008))の記述により、区分1とした。 | |
3 | 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 | 区分1 | 危険 | H318: 重篤な眼の損傷 |
P305+P351+P338: 眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。 P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。 P310: 直ちに医師に連絡すること。 |
ヒトでのばく露により、結膜炎、眼瞼角結膜炎、灼熱感、光恐怖、眼瞼浮腫、角膜浮腫と剥離、霧視、一時的盲が報告され(DFGOT vol.4(1992)、ATSDR(2003))、さらに当該物質がばく露時に液体の場合は蒸気に比べ強い傷害を起こし、角膜穿孔のリスクが増し、永続的視力喪失に至る(HSDB(2008))との記述に基づき、区分1とした。なお、ウサギ眼に液体をばく露した場合の組織学的変化として、6〜9時間後に角膜上皮基底細胞の核濃縮、壊死、極性消失、24時間後に下層の基底膜からの剥離を伴う角膜上皮細胞の変性が認められている(HSDB(2008))。 | |
4 | 呼吸器感作性 | 分類できない | - | - | - | - | データなし。 |
4 | 皮膚感作性 | 分類できない | - | - | - | - | データなし。 |
5 | 生殖細胞変異原性 | 区分1B | 危険 | H340: 遺伝性疾患のおそれ |
P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。 P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。 P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。 P281: 指定された個人用保護具を使用すること。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
ラットを用い吸入または経口投与による優性致死試験(生殖細胞in vivo経世代変異原性試験)において、いずれも陽性の結果(DFGOT vol.4(1992)、ATSDR(2003))が得られていることから、区分1Bとした。なお、モルモットを用いたDNA付加体形成試験(体細胞in vivo遺伝毒性試験)は陽性(HSDB(2008))であり、またin vitro試験については、エームス試験(ATSDR(2003))、マウスのリンパ腫細胞を用いた遺伝子突然変異試験および染色体異常試験(ATSDR(2003)、DEFGOT vol.4(1992))、ラットのリンパ肉腫細胞を用いた染色体異常試験(IARC 9(1975))は、いずれも陽性である。 | |
6 | 発がん性 | 区分1A | 危険 | H350: 発がんのおそれ |
P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。 P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。 P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。 P281: 指定された個人用保護具を使用すること。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
IARCによりグループ1(IARC Suppl.7(1987))、日本産業衛生学会により第1群(産衛学会勧告 2005)、NTPではK(NTP ROC No.11(2005))に分類されていることから、区分1Aとした。なお、第一次および第二次大戦中に戦場あるいは生産工場でマスタードガスのばく露を受けたヒトを対象として、複数の疫学調査が国内外で実施されている(IARC vol.9(1987))。それらの報告によれば、マスタードガスのばく露と呼吸器がんとの間には関連があり、ばく露による呼吸器がんのリスクの増加を示唆、あるいは明示する結果が得られている。一方、動物試験のデータは少ないが、マウスに吸入ばく露により、対照群に比べ肺腫瘍の有意な発生増加が見られたとの報告がある(IARC Suppl.7(1987))。 | |
7 | 生殖毒性 | 区分1B | 危険 | H360: 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ |
P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。 P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。 P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。 P281: 指定された個人用保護具を使用すること。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
イランイラク戦争でマスタードガスを含む化学兵器攻撃を受けたイラン人生存者の子孫で胎児死亡率の増加、先天異常の発生頻度の増加、精巣生検で無精子症または重度の精子過少と診断されたヒトが多かったことが報告されている(ATSDR(2003)、HSDB(2008))。これらのヒトのばく露例ではマスタードガス以外の物質のばく露の可能性もあるとされているので(ATSDR(2003)、ヒトに対し生殖毒性が既知とは言えないが、少なくとも生殖・発生毒性があると推定されるので区分1Bとした。なお、ラットを用いた優性致死試験において、経口ばく露の雄と非ばく露の雌の交配により、平均早期吸収数の有意な増加、着床後胚損失率の有意な増加、異常精子率の有意な増加を示し、雄で優性致死作用が認められた(ATSDR(2003))。 | |
8 | 特定標的臓器毒性(単回暴露) | 区分1(神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系、造血系、泌尿器系) | 危険 | H370: 臓器の障害(神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系、造血系、泌尿器系) |
P307+P311: 暴露した場合:医師に連絡すること。 P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。 P264: 取扱後は...よく洗うこと。 P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。 P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。 P405: 施錠して保管すること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
第一次大戦とイランイラク戦争でマスタードガスのばく露を受けたヒト(主に兵士)に関する症例があり、また、疫学調査の結果が多数報告されている(DFGOT vol.4(1992)、ATSDR(2003)、HSDB(2008))。それらの報告における重大な毒性症状として、眩暈、角膜反射の消失、不安、激越、求心性神経の持続的障害、呼吸困難、慢性気管支炎、肺炎、呼吸不全、循環器障害、チアノーゼ、赤血球破壊、ヘモジデリン沈着、白血球増加と減少、骨髄不全、出血性腎炎、乏尿、腎不全、下痢、臓器出血(脳、・胃・膵臓・心内膜および外膜幕など)、角膜炎、皮膚傷害などが記され、器官別にも神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系、造血系、泌尿器系、皮膚、眼と多岐にわたる。以上の報告により区分1(神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系、造血系、泌尿器系)とした。 | |
9 | 特定標的臓器毒性(反復暴露) | 区分1(呼吸器) | 危険 | H372: 長期にわたる、又は反復暴露による臓器の障害(呼吸器) |
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。 P264: 取扱後は...よく洗うこと。 P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。 P314: 気分が悪いときは、医師の診断/手当てを受けること。 P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。 |
戦前に主にマスタードガスを製造していた毒ガス工場でばく露された多くの作業者が咳や痰を生じ(DFGOT vol.4(1992))、さらに製造工場でばく露を受けた作業者において、慢性気管支炎、重度の慢性咳、気道閉塞、肺炎など呼吸器疾患の有意な増加が報告されている(DFGOT vol.4(1992)、ATSDR(2003)、HSDB(2008))ことから、区分1(呼吸器)とした。なお、ラットに0.3〜0.003 mg/kg/dayを13週間経口投与した試験では、呼吸器系への影響は示されていない(ATSDR(2003))。 | |
10 | 吸引性呼吸器有害性 | 分類できない | - | - | - | - | データなし。 |
危険有害性項目 | 分類結果 | シンボル | 注意喚起語 | 危険有害性情報 | 注意書き | 分類根拠・問題点 | |
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11 | 水生環境有害性(急性) | 分類できない | - | - | - | - | データがなく分類できない。 |
11 | 水生環境有害性(長期間) | 分類できない | - | - | - | - | データがなく分類できない。 |
12 | オゾン層への有害性 | 分類できない | - | - | - | - | 当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていないため。 |
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