GHS分類結果

名称:(SP‐4‐2)‐ジアンミンジクロロ白金 (別名シスプラチン)
CAS番号:15663-27-1

結果:
物質ID: 21A3741
分類実施者: 厚生労働省・環境省
分類実施年度: 平成21年度
使用マニュアル: 政府向けGHS分類ガイダンス(H21.3版)

物理化学的危険性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
1 爆発物 分類対象外 - - - - 分子内に爆発性に関連する原子団を含まない。
2 可燃性/引火性ガス(化学的に不安定なガスを含む) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
3 エアゾール 分類対象外 - - - - エアゾール製品でない。
4 支燃性/酸化性ガス 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
5 高圧ガス 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
6 引火性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
7 可燃性固体 分類できない - - - - データなし。
8 自己反応性化学品 分類対象外 - - - - 分子内に爆発性・自己反応性に関連する原子団を含まない。
9 自然発火性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
10 自然発火性固体 分類できない - - - - データなし。
11 自己発熱性化学品 分類できない - - - - データなし。
12 水反応可燃性化学品 区分外 - - - - 金属を含む化合物であるが、水溶解度(0.253 g/100 g(25℃))が示されている(Merck(14th, 2006))。
13 酸化性液体 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
14 酸化性固体 分類できない - - - - ハロゲン元素(Cl)を含む無機化合物であるが、試験データがないため分類できない。
15 有機過酸化物 分類対象外 - - - - 無機化合物である。
16 金属腐食性物質 分類できない - - - - 固体状の物質に適した試験方法が確立していない。

健康に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
1 急性毒性(経口) 区分2 危険 H300: 飲み込むと生命に危険 P301+P310: 飲み込んだ場合:直ちに医師に連絡すること。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P330: 口をすすぐこと。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ラットLD50値は約20 mg/kg(EHC No.125(1991))であるとの報告に基づき、区分2とした。
1 急性毒性(経皮) 分類できない - - - - データなし。
1 急性毒性(吸入:ガス) 分類対象外 - - - - GHSの定義における固体である。
1 急性毒性(吸入:蒸気) 分類できない - - - - データなし。
1 急性毒性(吸入:粉塵、ミスト) 分類できない - - - - データなし。
2 皮膚腐食性/刺激性 区分外 - - - - ウサギを用いたパッチテスト(24時間適用)において、皮膚一次刺激指数0.13で軽度の刺激性(mild irritant)がみられる(EHC No.125(1991))ため、JIS分類基準の区分外(国連分類基準の区分3)とした。
3 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分2A 警告 H319: 強い眼刺激 P305+P351+P338: 眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。
P337+P313: 眼の刺激が続く場合:医師の診断/手当てを受けること。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P280: 保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
ウサギを用いた試験において、重度の刺激性(severely irritant)がみられる(EHC No.125(1991))ため、区分2Aとした。なお、水溶性の白金塩として「粉末は眼に対して灼熱感、流涙、結膜充血、時に羞明を引き起こし、角膜上皮に影響を与える可能性が示唆される。」(HSDB(2009))との記載がある。
4 呼吸器感作性 分類できない - - - - 呼吸器感作性に関するデータはなく、分類できないとした。なお、EHC No.125(1991)において「本物質のような白金の中性錯体にアレルギー誘発性はない。これは、恐らく本物質が完全抗原を形成するタンパク質と反応しないためである。」との記載がある。
4 皮膚感作性 区分外 - - - - EHC No.125(1991)において「本物質のような白金の中性錯体にアレルギー誘発性はない。これは、恐らく本物質が完全抗原を形成するタンパク質と反応しないためである。」との記載があり、区分外とした。
5 生殖細胞変異原性 区分1B 危険 H340: 遺伝性疾患のおそれ P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。
P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。
P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
P281: 指定された個人用保護具を使用すること。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
in vivo試験では、マウスの精母細胞を用いた染色体異常試験で陽性であり(PATTY(5th, 2001))、区分1Bとした。なお、その他in vivo試験では、マウスを用いた優性致死試験で陰性(IARC Suppl. No.7(1987))、マウスおよびラットの骨髄を用いた染色体異常試験で陽性(EHC No.125(1991)、PATTY(5th, 2001))、マウスの骨髄を用いた姉妹染色分体交換試験で陽性(EHC No.125(1991))、ラット体細胞DNAとの付加体形成試験で陽性(PATTY(5th, 2001))である。in vitro試験では、全てのエームス試験、染色体異常試験、小核試験で陽性である(EHC No.125(1991)、IARC vol.26(1981)、NTP DB(access on Oct. 2009))。
6 発がん性 区分1B 危険 H350: 発がんのおそれ P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。
P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。
P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
P281: 指定された個人用保護具を使用すること。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
IARCで2Aに分類されており(IARC Suppl. No.7(1987))、区分1Bとした。なお、本物質を単独で使用した疫学データは得られず、動物試験では、マウスを用いた腹腔内投与試験において肺腺腫の発生増加、マウスの皮膚にプロモーターとしてクロトン油を塗布し、腹腔内投与した試験において皮膚乳頭腫の発生増加がみられ、ラットを用いた2つの腹腔内投与試験では白血病が誘発された(IARC Suppl. No.7(1987))。
7 生殖毒性 区分1B、追加区分:授乳に対するまたは授乳を介した影響 危険 H362: 授乳中の子に害を及ぼすおそれ
H360: 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
P308+P313: 暴露又は暴露の懸念がある場合:医師の診断/手当てを受けること。
P201: 使用前に取扱説明書を入手すること。
P202: 全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P263: 妊娠中/授乳期中は接触を避けること。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P281: 指定された個人用保護具を使用すること。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
ヒトでは、本物質を含む抗がん剤の治療を妊娠初期に受けた13人の女性のうち、子供が生まれるまで妊娠を継続した5人中2人に新生児の低体重がみられ、自然流産が4人にみられた(PATTY(5th, 2001))との報告、本物質の治療開始後2ヶ月以内に無精子症が発症することが示された(HSDB(2009))との報告があり、医薬品添付文書において、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。(動物実験で、ラットにおいて催奇形作用、胎児致死率の増加、ウサギにおいて胎児致死率の増加が認められ、また、マウスにおいて催奇形作用、胎児致死作用が報告されている。)」、「授乳婦に投与する場合には、授乳を中止させること。(母乳中に移行することが報告されている。)」との記述があるため(ランダ注(シスプラチン製剤)添付文書(2009))、以上の結果より生殖毒性については区分1B、また授乳に対するまたは授乳を介した影響に関する追加区分とした。
8 特定標的臓器毒性(単回暴露) 区分1(消化器、骨髄、腎臓、神経系) 危険 H370: 臓器の障害(消化器、骨髄、腎臓、神経系) P307+P311: 暴露した場合:医師に連絡すること。
P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P321: 特別な処置が必要である(このラベルの...を見よ)。
P405: 施錠して保管すること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
本物質は抗がん剤として使用されており、ヒトのデータは、本物質を投与された患者における副作用を報告したものである。経口、経皮、吸入経路のデータは無く、単回か反復かの判断も困難であるが、急性影響として記載されている症状は、消化器への影響として難治性の吐気と嘔吐、骨髄の影響として白血球減少症、血小板減少症(IARC vol.26(1981))、腎臓への影響として尿細管の損傷、神経系への影響として聴力の低下、不明瞭な話し方、味覚障害、手の無感覚、歩行困難、深部腱反射の消失または減少、見当識障害、妄想症、感覚機能低下、運動機能低下がみられる(いずれもPIM 132(1992))ため、区分1(消化器、骨髄、腎臓、神経系)とした。なお、その他一時的で軽度の肝臓毒性がみられるが、肝臓への影響は稀である(PIM 132(1992))との記載があるため、分類には考慮しなかった。
9 特定標的臓器毒性(反復暴露) 区分1(骨髄、腎臓、神経系、消化器系、全身毒性) 危険 H372: 長期にわたる、又は反復暴露による臓器の障害(骨髄、腎臓、神経系、消化器系、全身毒性) P260: 粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
P264: 取扱後は...よく洗うこと。
P270: この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
P314: 気分が悪いときは、医師の診断/手当てを受けること。
P501: 内容物/容器を...に廃棄すること。
本物質は抗がん剤として使用されており、ヒトのデータは、本物質を投与された患者における副作用を報告したものである。経口、経皮、吸入経路のデータは無いが、長期治療においてみられる症状は、骨髄への影響として骨髄抑制、貧血、血小板減少症、白血球減少症、腎臓への影響として糸球体ろ過率の著しい低下、神経系への影響として末梢神経障害、眼の神経炎、乳頭浮腫、足首の振動感覚と反射の減少、てんかん性発作、消化器への影響として強い吐気、嘔吐、胃腸疾患が記載されている(PATTY(5th, 2001)、PIM 132(1992))。よって、区分1(骨髄、腎臓、神経系、消化器系)とした。また、医薬品添付文書においては、重大な副作用として「急性腎不全、汎血球減少等の骨髄抑制、ショック、アナフィラキシー様症状、聴力低下・難聴、耳鳴、うっ血乳頭、球後視神経炎、皮質盲、脳梗塞、一過性脳虚血発作、溶血性尿毒症症候群、心筋梗塞、狭心症、うっ血性心不全、不整脈、溶血性貧血、間質性肺炎、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、消化管出血、消化性潰瘍、消化管穿孔、急性膵炎、高血糖、糖尿病の悪化、横紋筋融解症」(ランダ注(シスプラチン製剤)添付文書(2009))との記載があることから全身毒性とした。
10 吸引性呼吸器有害性 分類できない - - - - データなし。

環境に対する有害性
危険有害性項目 分類結果 シンボル 注意喚起語 危険有害性情報 注意書き 分類根拠・問題点
11 水生環境有害性(急性) 分類できない - - - - データなし。
11 水生環境有害性(長期間) 分類できない - - - - データなし。


分類結果の利用に関する注意事項:
 政府による分類結果は、GHSに基づくSDSやラベル作成の際に自由に引用および複写を行うことができます。ただし、引用および複写をした上で作成されたSDS・ラベルの内容に対する責任は、SDS・ラベル作成者にあることにご留意ください。
 本分類結果は、分類ガイダンス等のマニュアルで定められている情報源と判定方法に基づくものであり、あくまでもSDSやラベル作成の際の参考として公表しているものです。他の文献や試験結果等を根拠として、本内容と異なる分類結果でSDSやラベルを作成することを妨げるものではありません。

参考情報:
使用マニュアル

解説・用語集(エクセルファイル)

厚生労働省モデルラベル

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厚生労働省モデルSDS

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